兵庫医科大学化学2012年第3問

次の文章を読み、設問(1)~(4)に答えよ。ただし、原子量は$\text{H}=1.0$、$\text{C}=12.0$、$\text{O}=16.0$、$\text{Cu}=63.5$とする。

糖類は一般式$\text{C}_\text{m}(\text{H}_2\text{O})_\text{n}$で表され、炭水化物ともよばれている。糖類は、加水分解によってそれ以上簡単な糖に分解されない単糖類、加水分解によって単糖類2分子を生じる二糖類、単糖類の重合体である多糖類に分類される。

$\alpha$-グルコースの各炭素原子に図1のように番号を付け、1番目の炭素原子に結合したヒドロキシ基を1位のヒドロキシ基とよぶことにする。デンプンは、$\fbox{ア}$と$\fbox{イ}$からなる多糖類である。$\fbox{ア}$は、多数の$\alpha$-グルコースが1位と4位のヒドロキシ基間で$\fbox{ウ}$結合を形成し、直鎖状に伸びている。$\fbox{イ}$は、1位と4位の結合で直鎖状に伸びたものどうしが、1位と6位のヒドロキシ基間でも脱水縮合して、ところどころで枝分かれした構造をもつ。ただし、枝分かれは末端のグルコース単位には見られない。

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デンプンを酸または酵素で部分的に加水分解するとデキストリンが生じる。デキストリンをさらに分解すると、二糖類であるマルトース(図2)やグルコースが生じ、最終的にはすべてグルコースになる。デンプンを加水分解する酵素を総称して$\fbox{エ}$という。$\fbox{エ}$には様々な種類があり、デンプンの1,4-$\fbox{ウ}$結合を切断するものや、1,6-$\fbox{ウ}$結合を選択的に切断するものなどが知られている。植物の細胞壁の主成分であるセルロースもグルコースが1,4-$\fbox{ウ}$結合で直鎖状に伸びているが、デンプンとは異なりセルロースは$\fbox{エ}$では加水分解されない。

$\fbox{イ}$に過剰のヨウ化メチル$(\text{CH}_3\text{I})$を反応させると、$\fbox{ウ}$結合に関与していないヒドロキシ基がすべてメチル化され、メトキシ基$(-\text{OCH}_3)$に変換される。これを酸で完全に加水分解すると、 $\fbox{ウ}$結合が切断された部分のみがヒドロキシ基となる。ただし、酸の加水分解によって1位のメトキシ基も分解されるため、結果として2,3位、2,3,6位、2,3,4,6位のヒドロキシ基がメチル化されたグルコースが得られる。たとえば、マルトースをメチル化したのちに酸で完全に加水分解すると、$\fbox{オ}$位のヒドロキシ基がメチル化されたグルコースと、2,3,6位のヒドロキシ基がメチル化されたグルコースが1:1の物質量比で生成する。また、30個のグルコースからなり、枝分かれが3か所存在するデキストリンについても同様の操作を行うと、2,3位、2,3,6位、2,3,4,6位のヒドロキシ基がメチル化されたグルコースが$\fbox{カ}:\fbox{キ}:\fbox{ク}$の物質量比で生成する。このように、生成物中のメチル化された部位と含有量をみることで、重合度や枝分かれの数を推定することができる。

設問
  • (1) $\fbox{ア}$~$\fbox{ク}$に適切な語句や数字を記入せよ。
  • (2) マルトースは図2のような構造をしている。一方、セルロースを加水分解して得られる二糖類の部分構造を図3に示した。図3を完成させよ。
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  • (3) $\fbox{エ}$の一種である酵素Xと酵素Yについてそれぞれの活性を調べたと ころ、Xは1,4結合のみを選択的に切断するが、1,6結合をもつグルコース単位の1,4結合は切断できなかった。すなわち、グルコース単位を球で表し、結合している炭素の番号を付けてデンプンの一部を図4のように模式的に表すと、酵素Xが切断できない箇所は矢印部分になる。
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    一方、Yはデンプンの非還元末端側から2分子ずつ、マルトース単位ごとに1,4結合を切断したが、やはりXと同様に1,6結合をもつグルコース単位の1,4結合は切断できなかった。ここで、非還元末端とはデンプン分子内で4位のヒドロキシ基が存在する末端側を指す。
    • (i) デンプンにXを作用させて、途中で加熱して反応を停止させたところ、分子量1152のデキストリンDが得られた。Dはいくつのグルコース単位で構成されているか。
    • (ii) DをYで完全に加水分解すると、1分子のDからマルトース1分子が生成した。また、Dのヒドロキシ基をすべてメチル化したのちに酸で完全に加水分解したところ、1分子のDから2,3位のヒドロキシ基がメチル化されたグルコースは1分子得られた。Dの構造として適当なものを、図4にならいすべて記せ。
  • (4) 水を含むデンプン1.00gに酸を加えて加熱し、完全に加水分解したのちに中和した。これに過剰のフェーリング液を加えて加熱したところ、赤色沈殿が0.858g得られた。
    • (i) このデンプンに含まれる水の質量百分率(%)を有効数字2桁で求めよ。計算の過程も示すこと。なお、グルコース1molから赤色物質は1mol得られ、デンプンは水以外の不純物を含まないものとする。
    • (ii) グルコースはフェーリング液を還元してどのような構造になるか。図1を参考にその構造を記せ。