慶應義塾大学生物2013年第2問

以下の文章を読んで、問1~問8に答えなさい。 文中につけた下線番号は問の番号と対応している。

発生や行動の分子機構を研究するためのモデル生物として、センチュウCaenorhabditis elegans(図1)(1)が利用されている。この動物は自然状態では土壊中で自由生活する生物であるが、寒天培地上に殖やした大腸菌を餌として、シャーレの中で培養することができる。その性染色体がXXの個体は雌雄同体で、通常は自家受精で繁殖するが、低頻度でXOの個体が生まれ(2)、これは雄となる。

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  • 問1-1 この動物はどのような形をしているか。 外形の輪郭を解答欄の枠内の約80%を占める大きさで描きなさい。
  • 問1-2 図1の説明文の[  ]内からふさわしい長さを選んで、記号で答えなさい。
  • 問2 下線(2)の現象と似たメカニズムで起こる現象として、最もふさわしいものを次の中から1つ選び、記号で答えなさい。
    • (a)ヒトの21番目の染色体が重複して3本になるとダウン症を発症する。
    • (b)ヒドラでは出芽によって繁殖する無性生殖がみられる。
    • (c)ニワトリはZW型の性決定様式を示す。
    • (d)かま状赤血球貧血症は遺伝子の突然変異によって起こる。
    • (e)血友病の遺伝子はX染色体上にあり伴性遺伝する。

センチュウを飼育容器内の一定の温度下(23℃)で餌を自由に食べさせ、4時間飼育する。餌の入っていない容器を別に用意し、寒天培地に17℃から23℃の温度勾配をつけておく(図2参照)。4時間飼育したセンチュウをこの容器の中央部(図2Aの◯印、その部分の温度は20℃)に置いて行動を観察した。すると、センチュウは23℃の部分に向かって前進し、そこへ到達した(図2Aの×印)。一方、同様の実験を、餌を与えないで4時間飼育した個体で行うと、23℃の部分には移動しなかった(3)。センチュウは餌があるときの温度を覚えていた(これを餌-温度学習と呼ぶ)と考えられる。

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  • 問3 「センチュウは餌がない状態で一定温度に置かれると、その温度を避けるようなる。」という仮説を証明するためには、図2の実験用容器を使ってどのような実験を行えばよいか。センチュウの飼育条件と、そのセンチュウを実験用容器のどこに置くかについて、簡潔に述べなさい。

センチュウの頭部にある受容細胞A(図3参照)は、餌-温度学習で設定した温度付近よりやや低い温度および、それより高い温度に対して興奮する特性を持つ。たとえば23℃で餌-温度学習を行うと、受容細胞Aは21℃以上の温度に対して興奮する(4)ようになり、その興奮はシナプスを介して神経細胞Bへ伝えられる。逆に21℃以下の温度に対しては受容細胞Aは興奮しない。また、センチュウの頭部には受容細胞Aとは異なる役割を持つ受容細胞Eもあり、これは誘引性のある物質(5)の受容に関与する。

  • 問4 このように受容細胞の興奮を生じさせる最小限の刺激の強さを何と呼ぶか。
  • 問5 この物質がセンチュウ自身から分泌されるもので、他の個体がこれを受容すると特定の行動を引き起こす場合、この物質を何と呼ぶか。

神経細胞Bの興奮は軸索を伝導し、活動電位が神経終末に到達すると、(ア)が開き、カルシウムイオンが神経終末の内部へ流入する。このカルシウムイオンが引き金となり、(イ)の中に蓄えられた(ウ)がシナプス間隙に放出される。(ウ)が隣接する神経細胞Dの細胞膜にある(エ)と結合することで興奮が神経細胞Dに伝えられる。放出された(ウ)はシナプス間隙にある酵素によって(オ)されたり、神経細胞Bに回収されたりして興奮の伝達が終わる。

神経細胞Dへ興奮を伝える経路はもう一つあり、神経細胞C(7)(8)は神経細胞Bからの信号を受け取って、さらに神経細胞Dへ伝える。従って神経細胞Dは神経細胞BとCからの信号を続合して、運動神経Mへ信号を送る。

  • 問6 文章中の空欄(ア)~(オ)を適切な術語で埋めなさい。
  • 問7 神経細胞Cのように、2つの神経細胞の間で情報の伝達をする神経を何と呼ぶか。
  • 問8 餌-温度学習をしたセンチュウの神経細胞BまたはDをレーザー照射により破壊すると、いずれの場合も23℃の部分に向かっての前進運動はみられなかった。しかし、神経細胞Cを破壊した場合には、破壊していない個体よりも前進運動が活発になった。その理由としてどのようなことが考えられるか。
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