久留米大学化学2013年第1問
アンモニアは工業的に、天然ガスの水蒸気改質反応と水性ガス転化反応によって水素を得た後、これを触媒の存在下で窒素と混合して製造される(ハ一バー法)。これらはすべて気体同士の反応である。一般に溶液反応の平衡定数はモル濃度を用いて表されるが、このような気体反応の場合はモル濃度の代わりに分圧を用いた圧平衡定数$Kp$で表すことができる。以降、メタンと水蒸気から一酸化炭素と水素が生成する水蒸気改質反応を[反応1]、一酸化炭素と水蒸気から二酸化炭素と水素が生成する水性ガス転化反応を[反応2]、ハーバー法によるアンモニア合成反応を[反応3]とそれぞれ定義すると、温度1200Kにおける[反応1]の圧平衡定数$Kp_1$は$2.5\times10^3$[Pa2]である。同様に、[反応2]の圧平衡定数$Kp_2$は700Kと1200Kにおいてそれぞれ9.0と$7.0\times10^{-1}$である。また、以下の熱化学方程式は上から順に[反応1]、[反応2]、[反応3]の熱収支をそれぞれ表している。これらをふまえて以下の設問に答えよ。ただし、水は完全に気体になっているものとし、気体はすべて理想気体として取り扱うものとする。なお、必要であれば気体定数$R=8.3\times10^3$Pa・L/(K・mol)を用い、数値を問う設問に関しては、特に指定がない限り有効数字2桁で解答せよ。
\[\text{CH}_4(気)+\text{H}_2\text{O}(気)=\text{CO}(気)+3\text{H}_2(気)-206\text{kJ}\]
\[\text{CO}(気)+\text{H}_2\text{O}(気)=\text{CO}_2(気)+\text{H}_2(気)+40\text{kJ}\]
\[\text{N}_2(気)+3\text{H}_2(気)=2\text{NH}_3(気)+92\text{kJ}\]
- (1)温度の上昇により$Kp_2$が減少した要因はどのような原理に基づくものか。また、$Kp_1$の値は(a)圧力一定で温度のみが増大した場合と、(b)温度一定で圧力のみが増大した場合にそれぞれどうなるか。解答欄の[増大・減少・変化なし]の中から、最も適切なものを選び◯で囲め。
- (2)物質量の等しい一酸化炭素と水を1.7Lの反応容器内で適当な触媒とともに混合し、容器内の温度を700Kとしたとき、反応容器内では[反応2]のみが進行し、反応が平衡に達した後の容器内の一酸化炭素の分圧は$3.0\times10^4$Paであった。
- (a)平衡に達した際の水素の物質量を求めよ。
- (b)上記の平衡混合物に、新たにX molの一酸化炭素、およびこれと等しい物質量の水を追加し、温度を700Kに保って再び平衡状態とした後の水素の分圧は$1.5\times10^5$Paであった。新たに加えた一酸化炭素の物質量Xを求めよ。
- (3)実際の水素の製造では[反応1]と[反応2]を主体とした反応が複合的に起こる。
- (a)1molのメタンが完全に二酸化炭素と水素に変換された際の反応熱はどのようになるか。解答例に従って答えよ。なお、数値は整数で表すこと。(解答例)50kJの発熱反応
- (b)圧力を一定に保つことができる容積可変の容器中、適当な触媒の存在下でメタンと水を1:2の物質量比で混合して容器内の温度を1200Kとし、平衛状態に達するまで放置した。平衡状態到達時の反応容器内のメタンと水素気の分圧はともに$1.0\times10^5$Paであり、水素の分圧は$5.0\times10^3$Paであった。このときの二酸化炭素の分圧を求めよ。なお、反応容器内では[反応1]と[反応2]のみが複合的に進行したものとする。
- (4)[反応3]に関して、実際のアンモニアの製造では生産効率を上げるために温度条件が最適化されており、反応は800K前後で行われる。圧力一定のもと、500Kおよび1100Kの温度条件で反応を行った場合、800Kで反応を行った場合に比べて生産効率が低下するが、その主な理由をそれぞれ20字以内で簡潔に答えよ。ただし、上記以外の反応条件は一定であり、反応容器の強度や安全性等については考慮しないものとする。なお、句読点は字数に含めない。