日本医科大学生物2013年第3問

動物細胞における遺伝子の転写調節に関する下記の文章を読み、各問いに答えなさい。

受容体Aは細胞膜に存在するタンパク質であり、図1に示すように、細胞膜を貫通している。別の細胞からタンパク質Bがやってきて受容体Aに結合すると、何段階かの化学反応を経て、核内に常に存在する調節タンパク質Cが活性化し、遺伝子dの転写が促進される。タンパク質Bによる転写調節のしくみを調べるために、マウスの培養細胞を用いて以下の各実験を行った。ただし、DNAを導入する実験では、該当する実験群のすべての細胞に目的のDNAが同じ量導入されて発現するものとする。なお、実験に先立ち、受容体Aの細胞内領域(IC)とのみ結合する化合物E-1と、受容体Aの細胞外領域(EC)とのみ結合する化合物E-2を、それぞれ作製した。

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【実験1】

マウスの培養細胞を2つの実験群に分け、片方にのみタンパク質Bを投与したところ、投与しなかった実験群に比べて、遺伝子dのmRNA量は10倍になった。

【実験2】

実験1でタンパク質Bを投与しなかった実験群の細胞を固定してスライドグラスにのせ、化合物E-1と化合物E-2を反応させて観察した。その結果、どちらの化合物も細胞膜上で検出されたが、化合物E-1は(a)細胞膜の内側に、化合物E-2は細胞膜の外側に、それぞれ結合していた。

【実験3】

実験1でタンバク質Bを投与した実験群の細胞を培養液から取り出した。これらの細胞を生理食塩水中ですりつぶした懸濁液から化合物E-1と結合する物質を抽出したところ、抽出液には受容体Aとその細胞外領域断片(受容体A-EC)は含まれていなかったが、受容体Aの細胞内領域断片(受容体A-IC)と調節タンパク質Cが含まれていた。一方、同じ懸濁液から化合物E-2と結合する物質を抽出したところ、抽出液には受容体A、受容体A-EC、受容体A-IC、調節タンパク質Cのいずれも含まれていなかった。

さらに、実験1でタンパク質Bを投与しなかった実験群の細胞についても同様の実験を行ったところ、どちらの化合物を用いて抽出しても、抽出液には受容体Aが含まれていたが、受容体A-EC、受容体A-IC、調節タンパク質Cのいずれも含まれていなかった。

なお、どの場合でも、化合物を用いて抽出する前の懸濁液には、調節タンパク質Cが含まれていた。

【実験4】

実験2と実験3の結果から、受容体Aはタンパク質分解酵素により細胞内領域と細胞外領域とに分断されることがわかった。そこで、受容体Aを分断する酵素を明らかにするために、この細胞で常に発現している3種類のタンパク質分解酵素(酵素-1、酵素-2、酵素-3)のそれぞれを阻害する実験を行った。培養細胞を5つの実験群に分け、タンパク質Bの存在下でいずれかの酵素を阻害し、遺伝子dのmRNA量を測定した。さらに、実験3と同様に化合物E-1を用いて抽出液を調製し、抽出液中に調節タンパク質Cが含まれているかどうかを調べた。実験の条件と結果を表1に示す。

表1 各タンパク質分解酵素を阻害したときの、遺伝子dのmRNA量の平均(相対値)と抽出液中の調節タンパク質Cの有無
実験群1
実験群2
実験群3
実験群4
実験群5
タンパク質B
阻害した酵素
なし
なし
酵素-1
酵素-2
酵素-3
遺伝子dのmRNA量
1
10
1
10
1
調節タンパク質C
×
×
×
注)投与した場合は「+」、投与しなかった場合は「-」、含まれていた場合は「◯」、含まれていなかった場合は「×」で示してある。
【実験V】

受容体A-ICをつくる遺伝子を人工的に合成し、この人工遺伝子a-icをプロモーターFに連結させたDNA-1を作製した(図2)。ただし、このプロモーターFは、薬剤Gを投与したときのみ、連結した遺伝子を発現させることができる。培養細胞を4つの実験群に分け、そのうち2つの群にDNA-1を導入し、薬剤G投与前後の遺伝子dのmRNA量を測定した。さらに、実験3と同様に化合物E-1を用いて抽出液を調製し、抽出液中に調節タンパク質Cが含まれているかどうかを調べた。実験の条件と結果を表2に示す。

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表2 受容体A-ICを発現させたときの、遺伝子dのmRNA量の平均(相対値)と抽出液中の調節タンパク質Cの有無
実験群1
実験群2
実験群3
実験群4
タンパク質B
DNA-1
薬剤G
遺伝子dのmRNA量
1
1
1
10
調節タンパク質C
×
×
×
注)投与もしくは導入した場合は「+」、投与もしくは導入しなかった場合は「-」、含まれていた場合は「◯」、含まれていなかった場合は「×」で示してある。
【実験6】

調節タンパク質Cをつくる遺伝子を変異させることで、遺伝子dの転写を促進するはたらきのみを失った変異体CΔをつくることができる。この変異体CΔをつくる遺伝子を人工的に合成し、この人工遺伝子cδをプロモーターFに連結させたDNA-2を作製した(図3)。培養細胞を7つの実験群に分け、そのうち4つの群にDNA-2を導入し、薬剤G投与前後の遺伝子dのmRNA量を測定した。さらに、実験3と同様に化合物E-1を用いて抽出液を調製し、抽出液中に変異体CΔが含まれているかどうかを調べた。実験の条件と結果を表3に示す。

nihonika-2013-biology-3-3
表3 調節タンパク質Cの変異体CΔを発現させたときの、遺伝子dのmRNA量の平均(相対値)と抽出液中の変異体CΔの有無
実験群1
実験群2
実験群3
実験群4
実験群5
実験群6
実験群7
タンパク質B
DNA-2
薬剤G
遺伝子dのmRNA量
1
1
1
10
10
10
3
変異体CΔ
×
×
×
×
×
×
注)表示方法については表2と同様である。
  • 問1 実験1~実験3の結果から導き出される結論として、最も適切なものを以下の(ア)~(エ)より1つ選び、記号で答えなさい。
    • (ア) タンパク質Bの存在下では、受容体A-ICが調節タンパク質Cと結合して遣伝子dの転写を促進する。
    • (イ) タンパク質Bの存在下では、受容体A-ECが調節タンパク質Cと結合して遺伝子dの転写を促進する。
    • (ウ) タンパク質Bの非存在下では、受容体A-ICが調節タンパク質Cと結合して遣伝子dの転写を抑制する。
    • (エ) タンパク質Bの非存在下では、受容体A-ECが調節タンパク質Cと結合して遺伝子dの転写を抑制する。
  • 問2 タンパク質Bを投与した実験群の細胞を固定してスライドグラスにのせ、化合物E-1を反応させると、化合物E-1は下線部(a)は異なる部位で検出されるようになった。その部位とは主にどこであるか。実験2と実験3の結果をふまえ、以下の(ア)~(ウ)より適切なものを1つ選び、記号で答えなさい。
    • (ア) 細胞膜の外側
    • (イ) 細胞質
    • (ウ)核
  • 問3 実験3と実験4の結果から、(1)遺伝子dの転写を促進するために必要な酵素を以下のA群より、(2)その酵素が受容体Aを分断する条件を以下のB群より、それぞれ1つずつ選び、記号で答えなさい。
    A群:
    • (ア) 酵素-1のみ
    • (イ) 酵素-2のみ
    • (ウ) 酵素-3のみ
    • (エ) 酵素-1と酵素-2
    • (オ) 酵素-1と酵素-3
    • (カ)酵素-2と酵素-3
    • (キ) すべての酵素
    B群:
    • (ア) タンパク質Bの存在下でのみ分断する。
    • (イ) タンパク質Bの非存在下でのみ分断する。
    • (ウ) タンパク質Bの有無にかかわらず分断する。
  • 問4 実験5の実験群4において、酵素-1、酵素-2、酵素-3のいずれかを阻害すると、遺伝子dのmRNA量はどのようになるか。あてはまるものを以下の(ア)~(カ)よりすべて選び、記号で答えなさい。
    • (ア) 酵素-1を阻害すると、遺伝子dのmRNA量は1になる。
    • (イ) 酵素-2を阻害すると、遺伝子dのmRNA量は1になる。
    • (ウ) 酵素-3を阻害すると、遺伝子dのmRNA量は1になる。
    • (エ) 酵素-1を阻害しても、遺伝子dのmRNA量は10のままである。
    • (オ) 酵素-2を阻害しても、遺伝子dのmRNA量は10のままである。
    • (カ) 酵素-3を阻害しても、遺伝子dのmRNA量は10のままである。
  • 問5 実験6で測定した遺伝子dのmRNA量について、実験群7では実験群1と同じ値を示すことを期待していたが、実際は実験群1よりも高い値を示した。下線部の理由として最も適切なものを、以下の(ア)~(オ)より1つ選び、記号で答えなさい。
    • (ア) 実験群7のすべての細胞で、受容体A-ICが変異体CΔと結合したから。
    • (イ) 実験群7のすべての細胞で、受容体A-ICが変異体CΔと結合しなかったから。
    • (ウ) 実験群7のすべての細胞で、受容体A-ICが調節タンパク質Cと結合したから。
    • (エ) 実験群7の一部の細胞で、受容体A-ICが調節タンパク質Cと結合したから。
    • (オ) 実験群7の一部の細胞で、受容体A-ICが調節タンパク質Cと結合しなかったから。
  • 問6 培養細胞にDNA-1とDNA-2の両方を導入し、タンパク質Bの非存在下で薬剤Gを投与すると、遺伝子dのmRNA量はどのくらいになるか。実験5と実験6の結果をふまえ、以下の(ア)~(ウ)より最も適切なものを1つ選び、記号で答えなさい。また、その理由を説明しなさい。ただし、薬剤G投与前の値を1とする。
    • (ア) 1
    • (イ) 3
    • (ウ) 10