愛知医科大学生物2012年第1問

生体で見られる化学反応は酵素と呼ばれる触媒によって穏やかな条件においても速やかに進行する。酵素は主にアミノ酸が多数つながったポリペプチドで構成されている。ポリペプチドはアミノ酸のアミノ基と他のアミノ酸のカルボキシル基が結合し( ア )で表されるペプチド結合でつながっている。ポリペプチドが形成されたのち、アミノ酸間の相互作用によりポリペプチドが折りたたまれ固有の立体構造をとる。また、硫黄を含むアミノ酸であるシステインどうしは( イ )結合により強く結びつけられ立体構造の維持に重要な働きをする。酵素にはその活性に( ウ )と呼ばれる比較的遊離しやすい低分子物質やATPのエネルギーが必要なものもある。酵素を構成するポリペプチドの一次構造は遣伝子にコードされている。そのため、バイオテクノロジーを使って、遺伝子に変異を加え、任意のアミノ酸を別のアミノ酸に変えることが可能である。そこで、この手法を用いてアミノ酸を変化させ、酵素の活性がどのように変化するか、野生型の酵素Zと変異酵素Z1、 Z2、Z3を用いて下記の実験1~4を行った。ただし、酵素Zは物質Aから物質Bを合成するために必須の酵素であり、それ以外に物質Bを合成する経路はないものとする。また、野生型の遺伝子z、変異を加えた変異遺伝子z1、z2、z3からはそれぞれ遺伝子産物である野生型の酵素Z、変異酵素Z1、Z2、Z3が合成される。
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  • [実験1] 酵素Zの機能を詳しく調べるため、バイオテクノロジーを使って変異を加えた変異酵素遺伝子z1、z2、z3を作製した。変異酵素Z1は240番目のアミノ酸を、Z2は75番日のアミノ酸をそれぞれ別のアミノ酸に変え、Z3は155番目のアミノ酸に対応したコドンを終止コドンに変えた。(図1)
  • [実験2] 酵素Zを欠損した大腸菌に野生型の遺伝子zおよび変異遺伝子z1、z2、z3を導入し、得られたクローンからそれぞれ野生型の酵素Zおよび変異酵素Z1、Z2、Z3を精製し、同じモル濃度になるよう調整した。得られた酵素Zおよび変異酵素Z1、Z2、Z3をそれぞれ同量ずつ使って、物質Aの濃度と酵素反応速度の関係を調べたところ、図2のグラフが得られた。ただし、酵素Zと変異酵素Z3は同じ結果が得られたため、一本の実線で表してある。
  • [実酸3] 実験2で得られた同量の酵素Zおよび変異酵素Z3に物質Aを加えて反応時間と物質Bの生成量の関係をそれぞれ調べたところ、酵素Zと変異酵素Z3との間に差はなく、図3の破線のグラフになった。
  • [実験4] 実験3と同じ条件で、さらに酵素Yを加えて実験を行い、反応時間と物質Bの生成量の関係をそれぞれ調べたところ、図3の実線の結果が得られた。ただし、酵素Yは物質Bを物質Cに変える酵素であり、酵素Z、Yは酵素の特異性が異なり互いに直接影響を及ぼさないものとする。
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  1. 本文中の(  ア  )~(  ウ  )に最も適切な化学式(構造式)または語句を入れよ。
  2. タンパク質について次の(1)~(5)の記述うち、正しいものをすべて選び、番号で答えよ。
    • (1) ヒトは全アミノ酸のうち8種類のアミノ酸は体内で合成できないため食物から摂取する必要がある
    • (2) タンパク質の機能はタンパク質に含まれるアミノ酸の種類とその割合によって決まる
    • (3) すべてのタンパク質は約$90\ {}^\circ\mathrm{C}$の熱で変性してしまい、そのあと温度を下げてもその活性はもどらない
    • (4) タンパク質を構成しているアミノ酸は20種類あり、その種類は側鎖によって決まる
    • (5) ポリペプチドの一部がらせん状になったり、平行に並んでジグザグ状になったりする構造を三次構造という
  3. 本文中の下線部について次の(1)~(5)の記述のうち、正しいものをすべて選び、番号で答えよ。
    • (1) あるアミノ酸に対応しているコドンの3つの塩基に1つだけ別の塩基を加えると、その部分のアミノ酸だけが変わる
    • (2) あるアミノ酸に対応しているコドンの3つの塩基のうち1つだけ除くと、その部分のアミノ酸だけが変わる
    • (3) あるアミノ酸に対応しているコドンの3つの塩基のうち2つ以上の塩基を変えないとアミノ酸は変わらない
    • (4) あるアミノ酸に対応しているコドンの3つの塩基のうち2番目の塩基を変えても終止コドンにはならない
    • (5) あるアミノ酸に対応しているコトンの3つの塩基のうち3番目の塩基を変えてもアミノ酸が変わらない場合がある
  4. 酵素Zが物質Aを物質Bに変える反応式は以下のように表すことができる。
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    • $(\text{I})$Z・Aは酵素Zと物質Aが結合していることを表している。Z・Aは何と呼ばれているか、名称を記せ。
    • $(\text{I}\hspace{-.1em}\text{I})$図2のグラフから、変異酵素Z1とZ2のそれぞれの変異が酵素活性に与えた影響は反応式中のどの反応か。a~cの中から1つずつ選び記号で答えよ。また、その変化について適切な説明を(ア)~(カ)より選び記号で答えよ。
      • (ア)ZとAが結合できなくなった
      • (イ)ZとAとの結合速度が遅くなった
      • (ウ)Z・AからZとAに解離できなくなった
      • (エ)Z・AからZとAへの解離速度が遅くなった
      • (オ)Z・AからZとBへの反応速度が速くなった
      • (カ)Z・AからZとBへの反応速度が遅くなった
  5. 酵素の働きを阻害する物質(阻害剤)にはさまざまな種類がある。以下の反応式で表すことができる阻害剤はどのように酵素Zの活性を阻害しているのか説明せよ。ただし、阻害剤はIで表記されている。
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  7. 実験3と実験4の結果(図3)をもとに下記の問に答えよ。
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    • $(\text{I})$実験4において、酵素Zおよび変異酵素Z3を用いた時の反応時間と物質Cの生成量の開係のグラフを作成するとどのようになると考えられるか。右の図中の1~6から適切なものをそれぞれ1つずつ選び番号で答えよ。
    • $(\text{I}\hspace{-.1em}\text{I})$実験3では酵素Zと変異酵素Z3の物質Bの生成量は同じであったにも関わらず、実験4では酵素Zを用いた場合はt分後に物質Bがなくなっていた。物質Bがなくなってしまった理由を酵素Zの性質を考慮して記せ。
    • $(\text{I}\hspace{-.1em}\text{I}\hspace{-.1em}\text{I})$実験の結果から変異酵素Z3が欠失している部分(155~300番目のアミノ酸で構成されている部分)は、酵素Zではどのような役割をしていると考えられるか、記せ。