愛知医科大学生物2012年第4問
- [A]イカは生物界でも最大級の神経線維をもつ。(1)イカの巨大軸索は長さ10cmにおよび、直径は哺乳類の軸索の100倍以上、鉛筆の芯ほどもある。1930年代に、科学者は神経細胞の電気生理学的な研究にイカの巨大軸索を利用し始めた。比較的大きいおかげで軸索中に電極が挿入でき、電気的活動の測定や、活動電位の記録ができたからである。活動電位の発生と伝導にはどんなイオンが重要なのか、活動電位が通過するとき膜の透過性はどう変わるのか、この膜電位の変化がどのようにしてイオンの透過性を調節するのかなど、ニューロンの膜の電気伝導性についてのさまざまな問題に、この実験系を使って取り組むことができた。イカの軸索は非常に大きくて丈夫なので、練り歯磨きをチューブから押し出すようにして細胞質を軸索から取り除き、空になった軸索をNa+、K+、Cl−などの純粋溶液で満たすこと(灌流[かんりゅう])ができる。外液のイオンは灌流液にはかかわりなくさまざまに変えられる。一連の実験によって、(2)Na+とK+の濃度が細胞内外の自然の濃度に近いとき_に限って、軸索は正常な活動電位を生じることが発見された。図1はその1つで、外液のNa+の濃度と活動電位の関係を示す実験結果である。こうして、活動電位に必要な要素は、細胞膜、Na+とK+、膜をはさんだこれらのイオンの濃度勾配だと分かった。一方、外液のK+濃度を変えることにより静止状態の膜電位はK+の平衡電位に近いこと、つまり静止状態の膜はK+に対して透過性があり、K+は膜のチャネルを通り抜けて漏れていることが明らかになった。なお、(3)これらの実験系では代謝エネルギー源など、ほかの要素はすべて灌流によって除かれている。以下の各問に答えよ。
- 動物にとって太い軸索は細い軸索に比べてどのような利点があるか。
- 下線部(1)が示すように、哺乳類の軸索はイカの軸索に比べると格段に細いが、哺乳類は細い軸素の不利な側面をどのような方法で補っているか。
- 下線部(2)のNa+とK+の濃度が細胞内外の自然の濃度に近いときとは、どのような状態のことを指すのか。
- 図1で(A)外液のNa+濃度を変えると変化するのは何か。また(B)外液のNa+濃度を変えても変化しないのは何か。
- 下線部(3)が示すように、代謝エネルギー源がすべて除かれているにもかかわらず、活動電位が発生するのはなぜか。
- 興奮していない静止状態にある細胞で、細胞膜をはさんで内外に電位差が生じるのはなぜか。
- [B]イカの神経細胞内に22Na(Naの放射性同位体)で標識したNaCl溶液を注入し、時間を追って外液中の放射能の値を測定することにより、細胞内から細胞外へ輸送されるNa+の量を調べた。下の図2に示すように、外液に電子伝達系の阻害剤であるKCN(シアン化カリウム、青酸カリ)を加えると、Na+の輪送速度は著しく減少したが、細胞内にATPを注入すると、Na+の輸送速度が一時的に増加した。しかし、ATPを外液に加えた場合にはNa+の輸送速度の増加は起こらなかった。また、外液に添加するKCNの量を2倍に増やして同じように実験してみたところ、Na+の輸送速度はやはり著しく減少したが、Na+の輪送を完全に止めることはできなかった。
- イカの神経細胞で細胞内から細胞外へNa+の輸送を行っているものは何か。
- 1のような輸送は一般に何と呼ばれているか。
- イカの神経細胞でKCNを添加したことにより、Na+の輪送速度が低下したのはなぜか。
- イカの神経細胞でATPを細包内に注入すると、Na+の輸送速度が増加するが、外液にATPを加えても増加しないのはなぜか。
- イカの神経細胞で添加するKCNの量を増やしても、Na+の輪送を完全に止めることができないのはなぜか。