藤田保健衛生大学生物2012年第2問

細胞分裂を扱った実験に関する次の文を読み、以下の各問いに答えよ。

DNAはヌクレオチドが多数つながった2つの分子が、相補的な塩基同士で水素結合をした二重らせん構造をとっている。(1)DNAの二重らせんはタンパク質と複合体を形成し、これがさらに規則正しく折りたたまれて1本の染色体となる。ヒトの細胞の核の中には46本の染色体が存在している。細胞が分裂するのに先立ってDNAは倍加するが、その際に(2)DNAの二重らせんはほどけて、それぞれの分子を鋳型として新しいDNA鎖の合成が行われる。DNAを構成しているヌクレオチドは、デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシシチジン、デオキシチミジンの4種類のヌクレオシドにそれぞれリン酸が結合したものである。デオキシチミジンと構造がよく似ているブロモデオキシウリジン(BrdU)というヌクレオシドを細胞に与えると、DNA合成時にデオキシチミジンと間違えてBrdUがDNAに取り込まれる。そのようにして細胞を標識し、一定時間後、BrdUに対する特異的な染色を行うことで、DNA合成が行われた細胞を判別することができる。ヒトの神経細胞は、幼児期に増殖が停止した後は、再び分裂することはないと長い間考えられてきた。ところが、末期がんの患者の了解を得てBrdUの注射を行い、患者が亡くなった後、脳の組織を調べてみると、BrdUで標識された神経細胞が見つかった。この研究から、(3)脳の一部の組織では、成人になってからでも分裂を続ける神経細胞が存在していることが明らかになった。

このような標識方法を利用することによって、細胞周期の各期間の長さを算出することもできるようになった。一定周期で分裂をくり返しているヒトの培養細胞を用いて以下の実験を行った。この細胞の細胞周期は24時間であることがわかっている。

  • 【実験1】培養しているヒト細胞の培養液にBrdUを添加し、その1時間後にBrdUを含まない培養液と交換し、培養を続けた。BrdUを添加してから24時間後に細胞を固定し、培養皿にあった1,200個の細胞を観察したところ、50個が分裂期にあった。さらにBrdUの染色を行ったところ、300個の細胞でBrdUの染色が観察された。このうち間期の細胞では、図3のように核で染色が見られ、分裂期の細胞では、染色体にBrdUの染色を見ることができた。
  • 【実験2】実験1と同様に、最初の1時間だけBrdUの標識を行い、培養液を新しいものと交換した後、48時間後に細胞を固定し、BrdUの染色を行った。その結果、一部の細胞で染色が観察され、そのうち分裂期にある細胞では、染色体にBrdUの染色が確認された。
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  • 問1 下線部(1)について、DNAと結合して染色体を形成するタンパク質の名称を記せ。
  • 問2 下線部(2)について、このようなやり方でDNAを倍加する合成の様式を何とよぶか。その名称を記せ。
  • 問3 下線部(3)について、このように各組織にあってたえず分裂を続けている細胞を何とよぶか。その名称を記せ。
  • 問4 実験1において、BrdUで標識された分裂期の染色体は、どのように観察されるか。図4の1~6の中からもっとも適当なものを1つ選び、その番号を記せ。ただし、BrdUが含まれていた部分が黒く染色されているものとする。
  • 問5 実験1で、染色された細胞や染色体では、細胞ごとにBrdUの染色の強さに差が見られた。その理由を40字程度で記せ。
  • 問6 実験1の結果から、この細胞株におけるi)DNA合成期と、ii)細胞分裂期の長さはそれぞれ何時間と算出されるか。ただしDNA合成準備期の長さは、1時間以上あるものとせよ。
  • 問7 実験2において、BrdUの染色が見られた細胞は、最初の1時間の標識の間にBrdUを取り込んだ細胞で、その後少なくとも2回の分裂を行ったものと考えられる。解答欄に描かれた2つの細胞は、2回目の分裂を終えたばかりの2つの娘細胞を示している。この2つの細胞はどのように染色されると予想されるか。図3にならってBrdU染色されている部分を塗りつぶせ。
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  • 問8 実験2において、BrdUの染色が観察された細胞の染色体の様子として、適当なものを図4の1~6の中からすべて選び、その番号を記せ。