慶應義塾大学生物2013年第1問
動物のからだのなかで血液が酸素$(\text{O}_2)$を運ぶために重要な特性は、酸素がヘモグロビン分子$(\text{Hb})$と可逆的に結合することである。これは次式で表され、反応はどちらの方向にも進む。
\[\text{Hb}+\text{O}_2\leftrightarrows\text{HbO}_2 (式)\]血液中の酸素濃度が高い場合は、ヘモグロビン$(\text{Hb})$は酸素と結合し、酸素ヘモグロビン$(\text{HbO}_2)$となり、反応は右へ進む。逆に、低い場合は、酸素は離れ、反応は左へ進む。
ヘモグロビン1分子は1分子の(ア)を含む2種類のポリペプチドがそれぞれ(イ)本ずつ、計(ウ)本のポリペプチドが集合したもの(2)である。(ア)の分子の中心には鉄$(\text{Fe})$原子が1個あり、ここに1個の酸素分子が結合する。酸素濃度が非常に高くなると、血液中のヘモグロビンで酸素と結合できる部位のすべてに酸素が結合し、それ以上は酸素と結合できず、ヘモグロビンは飽和する。ある一定の酸素濃度では、へモグロビンと酸素ヘモグロビンの量の割合は一定に保たれる。いろいろな酸素濃度における酸素ヘモグロビンの量を図示したものを酸素解離曲線(図1)と呼び(3)、上の式の反応が酸素濃度にどのように依存するかを示す。
酸素解離曲線はいろいろな条件で変化するが、これはpH(4)のほかに体温(5)や化学物質など、酸素とヘモグロビンとの結合を左右する様々な要因があるためである。また、この曲線は動物の生息する環境、さらに動物の種類などによって異なった形に変化する(6)。
- 問1 (ア)~(ウ)に適当な語や数値を入れなさい。
- 問2 全体的な立体構造をとるポリペプチドが、このように何本か集まることでタンパク質の機能が発揮される場合、これらのポリペプチドが集まってできる立体構造は何と呼ばれるか。
- 問3 ある恒温動物 (正常体温) の動脈血で酸素解離曲線を測定したら、図1の曲線aが得られた。この動物の動脈血の酸素濃度が80%、静脈血の酸素濃度が40%であったならば、この動脈血に含まれる酸素ヘモグロビンから、その何パーセントの酸素が組織に供給されたと考えられるか。ただし、静脈血の酸素解離曲線も曲線aと同じ形であったものとする。 図1 ある恒温動物の血液での酸素解離曲線。a、b、cは、それぞれ問題文中で示した条件での曲線を示す。横軸は酸素$(\text{O}_2)$濃度を、縦軸は酸素ヘモグロビン$(\text{HbO}_2)$の割合を、それぞれ相対値で示す。
- 問4-1 問3での動脈血のpHは7.4であったが、これを実験的に7.2に下げると酸素解離曲線は曲線bとなった(図1参照)。この変化は血液が全身に酸素を運ぶ上で、どのような意義をもつか。
- 問4-2 血液のpHの低下は、毛細血管中の酸素ヘモグロビンから酸素が放出される組織で実際に起きている。その原因は何か。
- 問5 体温が上がると酸素解離曲線は図1の曲線aから曲線bに変化する。これは変温動物の場合、生命活動に特に有利である。どのような点で有利か、説明しなさい。
- 問6 酸素解離曲線の形について、次のような比較実験を行った。
- 実験1:妊娠している動物(ほ乳類)の母親の血液とその胎児の血液との比較。
- 実験2:日本で一般的に飼育されているウシの血液と南米のアンデス高地に生息するリャマの血液との比較。
- 実験3:ゾウの血液とマウスの血液との比較。
- 問7 このアザラシのからだのなかで、血液の次に多くの酸素を貯えている部位はどこか。組織または臓器の名称で答えなさい。
ヒトは大気以外からは酸素を取り入れることができないので、水中に潜っているときは体内の酸素に依存するしかない。だから大きく息を吸ってから潜っても、せいぜい2、3分しか水中に留まれない。一方、ウェッデルアザラシ(南極に生息する海産のほ乳類、体長2.5m前後)は1時間近く潜水することができる。彼らは体重あたりの血液量がヒトの2倍もあり、体内に多くの酸素を貯える(7)ことができるためである。