慶應義塾大学生物2012年第3問

多細胞生物の発生についての以下の文章(1-3)を読んで、問1-7に順に答えなさい。
  1. 多細胞生物は、1個の細胞である受精卵が細胞分裂によって、その数を増やす一方、さまざまな形質を持つ細胞を作っていく。発生過程で細胞がいろいろな違う形質のものに変わっていくことを( ア )という。この( ア )が、細胞の核内の遺伝情報が変化するために起こるのかどうかを調べるために、カエルを用いて核の移植実験を行った(図1)。未受精卵の核を( イ )によって不活化(破壊)し、そこに幼生(オタマジャクシ)の腸上皮細胞の核を移植したところ、正常な幼生が得られた。この結果は、成熟した腸上皮細胞の核にも受精卵の核と同様な発生に必要な能力があることを示す。
    keiogijuku-2012-biology-3-1
    • 問1 空欄(ア、イ)に適切な言葉を入れなさい。
    • 問2 受精卵と腸上皮細胞の2種類の細胞間では形質が大きく異なる。その理由を、図1の実験を踏まえて説明しなさい。
      次に腸上皮細胞から核を取り出す時期を早く(胚胞期~尾芽胚期)して、未受精卵へ移植し、成体まで成長できた卵を数えた(図2)。
    • keiogijuku-2012-biology-3-2
    • 問3 核を取り出す時期が遅いほど、成体まで成長できる比率が低くなる理由について考えられることは何か、答えなさい。
  2. ネズミの未受精卵から核を取り除いておく。次にこれをもう1匹のネズミから分離した体細胞と( ウ )させるか、または核を取り出した未受精卵へ体細胞から取り出した核を注入し、この卵を仮母(受精卵が着床できるようにホルモン処理した雌ネズミ)の子宮へ入れる。このようにして生まれてきたネズミは、一般に( エ )と呼ばれる。( エ )の核内の遺伝子は体細胞を供与したネズミと同一となる。
    • 問4 空欄(ウ、エ)に適切な言葉を入れなさい。
    • 問5 ヒトの一卵性双生児では2人の遺伝子は同一である。しかし、上記のようにして実験的に作り出した( エ )であるネズミと体細胞を供与したネズミの間には、一卵性双生児には見られない遺伝情報の違いがあるのだが、それは何か。
  3. ハエ受精卵に化学物質などを作用させて発生させると変異体(奇形)が出現することが多くなる。そのようにして得られた変異体Gについて、遺伝子を調べてみると、遺伝子Xの点突然変異が単一の原因であることがわかった。遺伝子Xは、細胞において重要な機能にかかわるいろいろなタンパク質(酵素、ホルモン受容体、転写調節タンパク質、細胞の骨格構造に関わるタンパク質、分泌されるタンパク質など)の立体構造の形成に必要なタンパク質xをコードしていた。そこで、この変異体Gの成体を正常なハエと交配させ、その子孫を得て、さらに交配を続けたところ、図3のような遺伝を示し、変異体Gとは異なる形質を持つ変異体H、I、Jも出現した。(なお、変異体G、H、I、Jは、それぞれ複数の変異形質の組み合わせからなり、その変異には重複がある。また変異体Gの雄と変異体Gの雌を交配させたところ、ホモ接合体は致死であった。)
    keiogijuku-2012-biology-3-3
    • 問6-1 変異体G、H、I、Jで作られているタンパク質(変異タンパク質x')と正常個体でのタンパク質x(正常タンパク質x)の比率はどうなるか答えよ。なお、変異タンパク質x'は正常タンパク質xの機能に影響しない。また変異タンパク質x'と正常タンパク質xの半減期は同一とする。
    • 問6-2 単一の遭伝子Xの点突然変異によって、図3に示す遺伝の中で変異体はG以外にH、I、Jも出現した原因について、考えられる可能性を説明せよ。
    次に変異体Gの雄と正常な雌との間から得られた受精卵に正常な遺伝子Xを注入して、正常なタンパク質xを常に発現できるトランスジェニツク(遺伝子導入)動物を作った。
    • 問7 点突然変異のある遺伝子Xを持つトランスジェニック動物における変異体の出現は、遺伝子注入前と比べて、どのように変化すると予想されるか(問7-1)。また、その理由を記せ(問7-2)。