久留米大学生物2013年第4問

次の問題文を読み, 以下の問いに答えよ。

肝臓は脊椎動物における恒常性の維持に重要な役割をはたしており、ヒトでは腹部の右上方に位置する体内で最大の器官である。小腸で吸収された栄養分を含む血液は( 1 )を経て肝臓に入る。血液中のグルコースの一部は肝臓の細胞に吸収されて( 2 )に変えられて貯蔵され、必要に応じて再びグルコースに分解されてエネルギー源として全身の組織へと送り出される。肝臓にはグルコース以外にもタンパク質や脂質などの化学物質の合成や分解に関する酵素が他の器官よりも多く含まれており、酵素が触媒する化学反応に伴って発生する熱は体温の維持に役立つ。肝臓は体内の環境維持においても重要な役割を果たしており、体にとって有害な物質は肝臓において分解されたり無害な物質に変えられて解毒される。タンパク質を構成する( 3 )が分解されて生じる(a)アンモニアは肝臓において無毒化される。また、消化管から吸収された水溶性の薬物は腎臓から尿中に排泄されるが、脂溶性の薬物は肝臓で酸化反応などによって水溶性の化合物に変えて尿または胆汁へ排泄される。この酸化反応は主に肝細胞の小胞体に多く存在するシトクロムP450と呼ばれる酵素によってなされる。シトクロムP450は(b)分子中にヘムを含むタンパク質であり、ヒトでは約50種類存在していることが知られている。そのうちの一つであるCYP2D6をコードする遺伝子には多くの突然変異があることが知られており、CYP2D6*12と呼ばれる突然変異では、翻訳を開始するメチオニンをコードするAUGコドンのAに対応する塩基から数えて100番目の塩基がCからTに置き換わっていて、(c)そのためにCYP2D6の酵素活性が低下していることが知られている。抗ガン治療薬であるタモキシフェンは体内でCYP2D6によって代謝されることによってはじめて薬理活性を示すようになるが、(d)CYP2D6の活性には個人差があるため、同じ量の薬物を投与してもその代謝速度は個人によって異なるので、その血中濃度の変化の度合いが異なる場合がある

以下にCYP2D6の遺伝子の塩基配列の一部を示す。網掛け部分は翻訳開始のメチオニンをコードする塩基配列に対応しており、CYP2D6*12と呼ばれる突然変異では下線部のCがTに置き換わっている。CYP2D6の遺伝子のこの部分は全てmRNAに転写されて翻訳されスプライシングは起こらない。

kurume-2013-biology-4-1
  • 問1 文中の( 1 )~( 3 )にあてはまる適切な語句を答えなさい。
  • 問2 下線部(a)の肝臓におけるアンモニア処理を行う化学反応系の名称を答えなさい。
  • 問3 下線部(b)のようなタンパク質として、シトクロムP450以外の例を2つ挙げなさい。
  • 問4 肝細胞の血管と接する側の表面には微細な突起が多数存在するが、その理由を30字以内で述べなさい。
  • 問5 下線部(c)について、この突然変異が生じると、なぜ酵素活性が低下するのか。右の表を参考にしてその理由を30字以内で答えなさい。
  • 問6 下線部(a)について、タモキシフェンを投与する際に注意する点について100字以内で述べなさい。
    mRNAの遺伝暗号表
    第2文宇
    $\text{U}$$\text{C}$$\text{A}$$\text{G}$

     1

    $\text{U}$$\left.\begin{align}\text{UUU}\\\text{UUC}\\\end{align}\right\}$$\begin{align}\text{フェニル}\\\text{アラニン}\\\end{align}$
    $\left.\begin{align}\text{UUA}\\\text{UUG}\\\end{align}\right\}$$~\text{ロイシン}$
    $\left.\begin{align}\text{UCU}\\\text{UCC}\\\text{UCA}\\\text{UCG}\end{align}\right\}$$~\text{セリン}$$\left.\begin{align}\text{UAU}\\\text{UAC}\\\end{align}\right\}$$~\text{チロシン}$
    $\left.\begin{align}\text{UAA}\\\text{UAG}\\\end{align}\right\}$$~(\text{終止})$
    $\left.\begin{align}\text{UGU}\\\text{UGC}\\\end{align}\right\}$$~\text{システイン}$
    $\left.\text{UGA}\right\}$$~(\text{終止})$
    $\left.\text{UGG}\right\}$$~\text{トリプトファン}$
    $\text{U}$
    $\text{C}$
    $\text{A}$
    $\text{G}$

     3

    $\text{C}$$\left.\begin{align}\text{CUU}\\\text{CUC}\\\text{CUA}\\\text{CUG}\end{align}\right\}$$~\text{ロイシン}$$\left.\begin{align}\text{CCU}\\\text{CCC}\\\text{CCA}\\\text{CCG}\end{align}\right\}$$~\text{プロリン}$$\left.\begin{align}\text{CAU}\\\text{CAC}\\\end{align}\right\}$$~\text{ヒスチジン}$
    $\left.\begin{align}\text{CAA}\\\text{CAG}\\\end{align}\right\}$$~\text{グルタミン}$
    $\left.\begin{align}\text{CGU}\\\text{CGC}\\\text{CGA}\\\text{CGG}\end{align}\right\}$$~\text{アルギニン}$$\text{U}$
    $\text{C}$
    $\text{A}$
    $\text{G}$
    $\text{A}$$\left.\begin{align}\text{AUU}\\\text{AUC}\\\text{AUA}\\\end{align}\right\}$$~\text{イソロイシン}$
    $\left.\text{AUG}\right\}$$~\text{メチオニン(開始)}$
    $\left.\begin{align}\text{ACU}\\\text{ACC}\\\text{ACA}\\\text{ACG}\end{align}\right\}$$~\text{トレオニン}$$\left.\begin{align}\text{AAU}\\\text{AAC}\\\end{align}\right\}$$~\text{アスパラギン}$
    $\left.\begin{align}\text{AAA}\\\text{AAG}\\\end{align}\right\}$$~\text{リシン}$
    $\left.\begin{align}\text{AGU}\\\text{AGC}\\\end{align}\right\}$$~\text{セリン}$
    $\left.\begin{align}\text{AGA}\\\text{AGG}\\\end{align}\right\}$$~\text{アルギニン}$
    $\text{U}$
    $\text{C}$
    $\text{A}$
    $\text{G}$
    $\text{G}$$\left.\begin{align}\text{GUU}\\\text{GUC}\\\text{GUA}\\\text{GUG}\end{align}\right\}$$~\text{バリン}$$\left.\begin{align}\text{GCU}\\\text{GCC}\\\text{GCA}\\\text{GCG}\end{align}\right\}$$~\text{アラニン}$$\left.\begin{align}\text{GAU}\\\text{GAC}\\\end{align}\right\}$$~\text{アスパラギン酸}$
    $\left.\begin{align}\text{GAA}\\\text{GAG}\\\end{align}\right\}$$~\text{グルタミン酸}$
    $\left.\begin{align}\text{GGU}\\\text{GGC}\\\text{GGA}\\\text{GGG}\end{align}\right\}$$~\text{グリシン}$$\text{U}$
    $\text{C}$
    $\text{A}$
    $\text{G}$