埼玉医科大学生物2012年第1問

キイロショウジョウバエの形態形成を制御する調整遺伝子に関する次の文章を読み、下の問いに(問1~8)に答えよ。

図1に示したショウジョウバエ胚の前後軸と背腹軸は、未受精卵に蓄えられた多種類のmRNAから翻訳された調節タンパク質によって決められる。これらのmRNA は、母親の卵巣内で卵が形成される際に、卵母細胞の周囲にある細胞から卵母細胞へと輸送されたものである。発生の初期には受精卵の核の遺伝子は転写されておらず、前後軸や背腹軸などの体軸は受精卵の遺伝子型ではなく母親の遺伝子型によって決められる。体軸を決める母親の遺伝子に突然変異が生じると、胚発生が異常になる。

背腹軸の形成に必要な調節タンパク質を発現する遺伝子AとBを考える。遺伝子Aの突然変異aのホモ接合体aaの雌が産んだ卵から発生した胚は、胚全体が腹側の特徴を示し、ふ化せずに胚の状態で死亡 (胚性致死) する。一方、遺伝子Bの突然変異bのホモ接合体bbの雌が産んだ卵から発生した胚は、胚全体が背側の特徴を示し、やはり胚性致死となる。いずれの場合も、交配した父親の遺伝子型の影響は受けない。例えば、雌の遺伝子型がaaであれば、交配する雄の遺伝子型がAA、Aa、aaのいずれの場合でも子は胚性致死となる。

前後軸と背腹軸の次には、体節構造が決められる。体節構造を決める調節タンパク質も多種類が存在する。それらは、母親の遺伝子ではなく、受精卵の核の遺伝子が発現することによりつくられる。こうした遺伝子に突然変異が起こると、様々な組合せで体節の欠失が生じる。例えば、遺伝子Dの突然変異dのホモ接合体ddの胚では、体節が1つおきに欠失し胚性致死となる。

調節夕 ンパク質は、調節される遺伝子の転写調節領域に結合する。転写調節領域は、遺伝子の転写を行う( ア )が結合する( イ )から遠くにある場合が多い。調節タンパク質が転写調節領域に結合することにより、遺伝子の発現が促進されたり抑制されたりする。形態形成を制御する調節遺伝子は、体軸や体節構造を決める遺伝子だけではない。例えば、遺伝子Eが機能しないと成虫で眼が形成されない。また、この遺伝子Eを、野生型の幼虫の将来肢になる細胞で(ウ) 強制的に発現させると、成虫の肢に眼ができる。

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  • 問1 遺伝子AとBの野生型胚における機能として最も適切なものを、次の(1)~(4)のうちから1つ選べ。$\fbox{1}$
    • (1) 遺伝子Aは胚の背側を決める調節タンパク質を、遺伝子Bは胚の腹側を決める調節タンパク質を発現する。
    • (2) 遺伝子Aは胚の腹側を決める調節タンパク質を、遺伝子Bは胚の背側を決める調節タンパク質を発現する。
    • (3) 遺伝子AもBも、胚の背側を決める調節タンパク質を発現する。
    • (4) 遺伝子AもBも、胚の腹側を決める調節タンパク質を発現する。
  • 問2 遺伝子型が共にAaの雄と雌を交配して、子の世代を得た。次の(1)~(4)に答えよ。
    • (1) 子の世代の雄を遺伝子型Aaの雌と交配した。産卵された孫世代となる受精卵のうちで、胚性致死となるのは$\fbox{2}\fbox{3}\fbox{4}$%である。百の位の数字を$\fbox{2}$、十の位の数字を$\fbox{3}$、一の位の数字を$\fbox{4}$にマークせよ。小数第1位以下がある場合には切り捨てよ。該当する位がない場合には、 (0)をマークせよ。
    • (2) 子の世代の雌を遺伝子型Aaの雄と交配した。産卵された孫世代となる受精卵のうちで、胚性致死となるのは$\fbox{5}\fbox{6}\fbox{7}$%である。百の位の数字を$\fbox{5}$、十の位の数字を$\fbox{6}$、一の位の数字を$\fbox{7}$にマークせよ。小数第1位以下がある場合には切り捨てよ。該当する位がない場合には、 (0)をマークせよ。
    • (3) 子の世代の雄と雌を任意に交配させた。産卵された孫世代となる受精卵のうちで、胚性致死となるのは$\fbox{8}\fbox{9}\fbox{10}$%である。百の位の数字を$\fbox{8}$、十の位の数字を$\fbox{9}$、一の位の数字を$\fbox{10}$にマークせよ。小数第1位以下がある場合には切り捨てよ。該当する位がない場合には、 (0)をマークせよ。
    • (4) 子の世代の雄と雌を任意に交配させた。胚性致死とならずにふ化した孫世代において、遺伝子型AA:Aa:aaの比は$\fbox{11}$:$\fbox{12}$:$\fbox{13}$である。最も単純な1桁の整数の比で答えよ。該当する数字を$\fbox{11}$、$\fbox{12}$、$\fbox{13}$にマークせよ。
  • 問3 遺伝子Bは第Ⅱ染色体にあり、同じ第Ⅱ染色体にある遺伝子Pとの組換え価は2%である。遺伝子Pの突然変異pのホモ接合体ppは、眼の色が紫になる。遺伝子BとP、遺伝子bとpが連鎖している遺伝子型BbPpの雌に、遺伝子型bbppの雄を交配した。胚性致死とならずにふ化した子の世代のうち、受精しても胚性致死となる卵を形成する紫色眼の雌は$\fbox{14}\fbox{15}\fbox{16}$%である。なお、交配において、X染色体をもつ精子とY染色体をもつ精子の受精する確率は同じとする。百の位の数字を$\fbox{14}$、十の位の数字を$\fbox{15}$、一の位の数字を$\fbox{16}$にマークせよ。小数第1位以下がある場合には切り捨てよ。該当する位がない場合には、(0)をマークせよ。
  • 問4 遺伝子型が共にDdの雄と雌を交配した。産卵された受精卵のうちで、胚性致死となるのは$\fbox{17}\fbox{18}\fbox{19}$%である。百の位の数字を$\fbox{17}$、十の位の数字を$\fbox{18}$、一の位の数字を$\fbox{19}$にマークせよ。小数第1位以下がある場合には切り捨てよ。該当する位がない場合には、(0)をマークせよ。
  • 問5 遺伝子Dは第Ⅲ染色体にある。遺伝子型が共にBbDdの雄と雌を交配した。胚性致死とならずにふ化した子の世代のうち、受精しても胚性致死となる卵を形成する雌は$\fbox{20}\fbox{21}\fbox{22}$%である。なお、交配において、X染色体をもつ精子とY染色体をもつ精子の受精する確率は同じとする。百の位の数字を$\fbox{20}$、十の位の数字を$\fbox{21}$、一の位の数字を$\fbox{22}$にマークせよ。小数第1位以下がある場合には切り捨てよ。該当する位がない場合には、(0)をマークせよ。
  • 問6 文章中の( ア )、( イ )に入る語として最も適切なものを、下の語群1の(1)~(14)のうちから1つずつ選べ。ただし (11)はない。2桁の番号を選んでマークする場合には、十の位と一の位の数字を同じ解答番号にマークせよ(例えば(10)は(1)と(0)をマークする)。ア $\fbox{23}$ イ $\fbox{24}$
    語群1
    • (1) rRNA
    • (2) RNAポリメラーゼ
    • (3) イントロン
    • (4) エキソン
    • (5) mRNA
    • (6) オペロン
    • (7) スプライシング
    • (8) tRNA
    • (9) DNAポリメラーゼ
    • (10) DNAリガーゼ
    • (12) ヒストン
    • (13) プロモーター
    • (14) リボソーム
  • 問7 遺伝子操作を受けていない野生型のショウジョウバエにおける、遺伝子Eに関する記述として最も適切なものを、次の(1)~(5)のうちから1つ選べ。$\fbox{25}$
    • (1) 遺伝子Eは、肢をつくる遺伝子を発現させる調節遺伝子である。
    • (2) 遺伝子Eは、眼の形成を妨げる調節遺伝子である。
    • (3) 遺伝子Eは、幼虫の将来肢になる細胞では発現していない。
    • (4) 幼虫の将来眼になる細胞では、遺伝子Eに突然変異が起きている。
    • (5) 幼虫の将来肢になる細胞では、遺伝子Eによって発現させられる遺伝子が発現している。
  • 問8 下線部ウのように、標的となる細胞で遺伝子Eを強制的に発現させるために、遺伝子Eを組み込む遺伝子の運び屋を何というか。最も適切なものを、次の(1)~(5)のうちから1つ選べ。$\fbox{26}$
    • (1) クローン
    • (2) ゲノム
    • (3) トランスジェニック
    • (4) べクタ一
    • (5) プロトプラスト