産業医科大学生物2013年第2問

次の文章を読み、設問に答えなさい。

ヒトの細胞は、遺伝情報をDNAの中に保持している。このDNAはさまざまな要因によって損傷を受けるが、損傷が軽度の場合は損傷したDNAは修復され、損傷が高度の場合は積極的、機能的細胞死とよばれる〔 a 〕がおこる。これらが正しく機能していれば細胞は〔 b 〕をおこさない。しかし、損傷が修復されずに細胞分裂がおこると変化した塩基配列が〔 c 〕として娘細胞に受けつがれる。(1)自律的に無目的に増殖できる細胞を腫瘍細胞とよぶが、腫瘍細胞では多数の遺伝子に〔 c 〕がみられる。腫瘍細胞に〔 c 〕がさらに加わると転移などをおこす悪性腫瘍になることがある。これを悪性〔 b 〕という。悪性腫瘍の治療としては、放射線治療や抗がん剤の投与がある。(2)放射線や抗がん剤による細胞障害の効果は組織や細胞で異なり、細胞が障害を受けやすい場合、放射線感受性あるいは抗がん剤感受性が高いという。ベルゴニーとトリボンドーは、雄ラットの生殖細胞に放射線を照射した結果、〔 d 〕→〔 e 〕→〔 f 〕→〔 g 〕の順で放射線感受性が高くなることを見出した。この法則は次のように一般化された。細胞分裂頻度の高いものほど、将来分裂回数の大きいものほど、形態的および機能的に未分化なものほど放射線感受性は高くなる。また、(3)放射線感受性は酸素濃度などの環境条件にも影響をうける

  • 1.〔 a 〕~〔 g 〕に適切な語句を下から選び、ア~トの記号で答えなさい。ただし、同じ記号は1度しか使えない。
    • ア.アシドーシス
    • イ.アポトーシス
    • ウ.オートファジー
    • エ.クローン化
    • オ.形質転換
    • カ.減数分裂
    • キ.スプライシング
    • ク.精細胞
    • ケ.精原細胞
    • コ.精子
    • サ.精娘細胞
    • シ.精巣
    • ス.精母細胞
    • セ.接合子
    • ソ.転写
    • タ.突然変異
    • チ.ネクローシス
    • ツ.配偶子
    • テ.複製
    • ト.翻訳
  • 2.下線部(1)について、〔 c 〕と自律的で無目的な増殖との関連を説明しなさい。
  • 3.下線部(2)について、次のA~Cの組織を放射線感受性が高い順に並べ、記号で答えなさい。
    • A.筋肉
    • B.骨髄
    • C.皮膚
  • 4.下線部(3)について、腫瘍細胞を5%と30%の酸素濃度で培養した場合、放射線感受性が高いのはどちらか、数値で答え、その理由を2つ説明しなさい。

抗がん剤を使用した以下の実験Ⅰ、Ⅱについて設問に答えなさい。

実験Ⅰ 同数の腫瘍細胞Aを入れた容器を複数個用意する。一つの容器には抗がん剤Pを加えず、その他の容器には抗がん剤Pをさまざまな濃度になるようにくわえた。数日間培養したのち、各容器に生きている細胞の数(生細胞数)をかぞえた。各濃度における生細胞数の比率を次の式で求め、抗がん剤の効果をしらべた。

\[\text{「生細胞の比率(%)」}= \dfrac{\text{「抗がん剤Pを加えた容器の生細胞数」}}{\text{「抗がん剤Pを加えなかった容器の生細胞数」}} × 100\]

図1に生細胞の比率と濃度の関係を示す。生細胞の比率が50%になる抗がん剤の濃度をIC50値と定義する。抗がん剤の効果はIC50値で比較できる。

sangyoika-2013-biology-2-1

実験Ⅱ 腫瘍細胞Aを抗がん剤P存在下で長期間培養すると、その一部は抗がん剤Pが効きにくい腫瘍細胞Bになった。異物を細胞内から細胞外に排出する輸送タンパク質のなかには抗がん剤を細胞外に排出するものがある。解析の結果、(4)腫瘍細胞Bでは腫瘍細胞Aに比べ、輸送タンパク質Xが高発現し、抗がん剤P投与後における抗がん剤Pの細胞内量はきわめて低かった

  • 5.図1から抗がん剤PのIC50値を求めなさい。
  • 6.腫瘍細胞Bを使って実験Ⅰと同様の実験をおこなったところ、IC50値は腫瘍細胞Aに比べ10倍高かった。腫瘍細胞Bのグラフを図に実線で書きくわえなさい。
  • 7.下線部(4)について、輸送タンパク質Xが抗がん剤Pの排出と生細胞の比率に関与する可能性を示したい。その実験方法と予想される結果を「細胞内量」と「IC50値」の語句を使い説明しなさい。
  • 8.別の腫瘍細胞Cは最初から抗がん剤Pが効きにくかった。考えられる理由を1つ答えなさい。