東邦大学生物2012年第1問

ゾウリムシに関する以下の文を読み、問1~6に答えよ。 (文1)

ゾウリムシは、池や水田などの淡水中に見られる生物である。野外で採取したゾウリムシを実験室へ持ち帰り、光学顕微鏡で観察した。

(観察1)

10倍の接限レンズと20倍の対物レンズを用いて、対物ミクロメーターと接限ミクロメーターを見ると、対物ミクロメーター15目盛り分の長さが接眼ミクロメーターの31目盛り分の長さと同じであった。次に対物ミクロメーターをはずして、ゾウリムシをのせたプレパラートを観察すると、ゾウリムシの体長は接限ミクロメーターの45目盛り分の長さに相当した。

  • 問1 観察1から求められるソウリムシの体長はおよそどれか。ただし対物ミクロメーターは100目盛りで1 mmに相当する。
    • a. 140 $\mu$m
    • b. 160 $\mu$m
    • c. 180 $\mu$m
    • d. 200 $\mu$m
    • e. 220 $\mu$m
    • f. 240 $\mu$m
  • 問2 ゾウリムシについて誤っているのはどれか。
    • a. 核膜を持つ。
    • b. 従属栄養である。
    • c. 環境に応じて多細胞体を形成する。
    • d. 無性生殖と有性生殖の両方を行う。
(文2)

ゾウリムシは体表に多数の繊毛を有しており、その繊毛の運動によって水中を遊泳することができる。ビデオカメラを接続した実体顕微鏡を用いて、シャーレ中のゾウリムシの運動を観察し、さらに実験を行った。

(観察2)
  • 観察2―1 :前進遊泳しているゾウリムシの前端部が障害物にぶつかるなどの機械刺激を受けると、繊毛は逆方向に波打って(繊毛打逆転)、すなわち尾側から頭側方向へ波打って、ゾウリムシは後進遊泳する。しばらく後進するとゾウリムシは停止し、その場で後端を支点にして頭をぐるぐる回す連動を行う。その後、繊毛は再び頭側から尾側方向へ波打って前進遊泳を再開する。一連の行動の結果、前進遊泳の方向が変化したため障害物を避けることが出来る。この行動は回避反応と呼ばれる。
  • 観察2―2 :細胞の後端部に細いガラス棒でつつくなどの機械刺激を与えると前進遊泳の速度が速くなる(正常打の強化)。この行動は逃走反応と呼ばれる。
(実験1)

ゾウリムシを界面活性剤であるトリトンX-100とキレート剤を含む溶液で処理を行った。トリトンX-100で細胞を処理すると細胞膜が破壊されて細胞は死ぬが、繊毛の運動装置は保たれることが知られている。また、キレート剤は溶液中の金属イオンを除去する働きを持っている。このような処理を施したゾウリムシを基本溶液へ入れ、表1に従ってATP、マグネシウムイオン、カルシウムイオンを添加して反応を観察した。

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  • 問3 実験1から想定される仮説はどれか。2つ選べ。
    • a. マグネシウムイオンは、繊毛の後進遊泳に必須であるが、前進遊泳には必要でない。
    • b. カルシウムイオンは、繼毛の前進遊泳に必須であるが、後進遊泳には必要でない。
    • c. トリトンX-100処理を行うと機毛打逆転のメカニズムは破壊される。
    • d. 繊毛運動にはマグネシウムイオンとATP分解酵素が関与している。
    • e. カルシウムイオンは、正常打の強化のメカニズムに必要である。
    • f. カルシウムイオンは、繊毛打逆転のメカニズムに必要である。
    • g. 繊毛理動は特定のイオンを必要としない。
(文3)
(実験2)

さらにゾウリムシの運動についてより詳細な手がかりを得るために、物理的に動けなくした。ゾウリムシの体に細い電極を刺入して細胞膜の静止電位を計測した。その結果、静止電位は-25~-30 mVくらいであることがわかった。なお、この実験環境でのカリウムイオンとカルシウムイオンの細胞内外での濃度は表2のようであったとする。さらにこのゾウリムシに機械刺激を与えて膜電位の変化を計測した。

  • 実験2―1 :細胞の前端部に機械刺激を与えると、膜電位は図1aのように変化した。
  • 実験2―2 :細胞の後端部に機械刺激を与えると、膜電位は図1bのように変化した。

ゾウリムシの細胞膜には、機械刺激で開くカリウムチャネル、機械刺激で開くカルシウムチャネル、電位変化によって開くカリウムチャネル、電位変化によって開くカルシウムチャネルと能動輸送を行うカルシウムポンプなど多種のタンパク質が分布していると考えられている。ゾウリムシが機械刺激を受けると以下の一連の事象が生じると考えられる。

ゾウリムシの$\fbox{ア}$が、機械刺激を受けると$\fbox{イ}$が開いて$\fbox{ウ}$が細胞内へ流入する。その結果、膜電位が脱分極する。この電位の変化は細胞の表面を伝導し、その膜電位の変化によって$\fbox{エ}$が活性化する。この$\fbox{エ}$は、繊毛の細胞膜に分布していることが報告されている。さらに多くの$\fbox{ウ}$が細胞内へ流入し、一定濃度へ達すると繊毛速動の方向は逆転する。しばらくすると$\fbox{イ}$と$\fbox{エ}$が不活性化し、$\fbox{オ}$が活性化すると細胞質内の$\fbox{ウ}$の濃度が低下し、繊毛連動の方向は元へもどる。

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  • 問4 $\fbox{ア}$と$\fbox{ウ}$の組合せで正しいのはどれか。
    • a. ア:前 端、ウ:カリウムイオン
    • b. ア:前 端、ウ:カルシウムイオン
    • c. ア:前 端、ウ:マグネシウムイオン
    • d. ア:後 端、ウ:カリウムイオン
    • e. ア:後 端、ウ:カルシウムイオン
    • f. ア:後 端、ウ:マグネシウムイオン
  • 問5 $\fbox{イ}$と$\fbox{エ}$と$\fbox{オ}$に当てはまるのはそれぞれどれか。同じものを複数回選んでも良い。
    • a. 機械刺激で開くカリウムチャネル
    • b. 機械刺激で開くカルシウムチャネル
    • c. 電位変化によって開くカリウムチャネル
    • d. 電位変化によって開くカルシウムチャネル
    • e. 能動輸送を行うカルシウムポンプ
(文4) ゾウリムシにはいろいろな走性があることが知られている。たとえば、ゾウリムシの入ったシャーレの両端に直流電流を流すとゾウリムシはマイナス極の周辺に集まる。この行動は負の走電性と呼ばれる。これは細胞体を横切って流れる電流のため、細胞のプラス極側では. 膜電位は$\fbox{ア}$となり、マイナス極側では膜電位は$\fbox{イ}$となるためであると考えられている。たとえば、ゾウリムシの前端がマイナス極を向いている場合、細胞の前半の繊毛は$\fbox{ウ}$し、後半の繊毛では$\fbox{エ}$が生じる。前者よりも後者の推進力のほうが大きいため、ゾウリムシはマイナス極へ向かう。
  • 問6 $\fbox{イ}$と$\fbox{エ}$の組合せで正しいのはどれか。
    • a. イ:過分極、エ:繊毛打逆転
    • b. イ:過分極、エ:正常打の強化
    • c. イ:脱分極、エ:繊毛打逆転
    • d. イ:脱分極、エ:正常打の強化
    • e. イ:再分極、エ:繊毛打逆転
    • f. イ:再分極、エ:正常打の強化