東邦大学生物2012年第4問
(文1)
細胞内で行われる物質交代をアといい、生命活動に必要なエネルギーを獲得するイと、エネルギーを使って物質からタンパク質などの機能物質を作り出すウがある。イとウは同時に進行しているにもかかわらず、そのバランスは崩れることなく保たれている。なぜなら、細胞内における多数の酵素反応は常に調節を受け、アに必要な成分を過不足なく生産する調節能力が備わっているからである。
大腸菌には、アに直接関与する酵素の生産量を状況に応じて緻密に調節する機能が備わっている。大腸菌はまわりにエであるラクトースが存在するときにはラクトースを加水分解する酵素:β―ガラクトシダーゼを生成するが、ラクトースが存在しない環境下ではこの酵素をごく少量しか生産しない。β―ガラクトシダーゼの生産調節に関わる遺伝子群はラクトースオペロンという(図7)。β―ガラクトシダーゼのアミノ酸配列情報をコードしている遺伝子はlacZと呼ばれ、lacZの隣にはオペレーターという遺伝子部位が存在している。さらにオペレーターの近くには遺伝子のオの開始を制御するプロモーターという遺伝子部位が存在している。大腸菌がグルコースを利用しているときにはリプレッサーという調節タンパク質がオペレーターに結合しており、オは開始されない。しかし、大腸菌をグルコースは含まないがラクトースを含む培地に移すと、大腸菌内でラクトースは誘導物質に変化し、誘導物質はリプレッサーと結合し、リプレッサーがオペレーターからはずれ、オが開始されることになる。

- 問17 ア、イ、ウに当てはまるのはどれか。それぞれ答えよ。
- a. 異 化
- b. 基 質
- c. 合 成
- d. 酸 化
- e. 消 化
- f. 代 謝
- g. 脱 窒
- h. 窒素固定
- i. 同 化
- 問18 エに当てはまるのはどれか。
- a. 単 糖
- . b二 糖
- c. 三 糖
- d. オリゴ糖
- e. 多 糖
- 問19 オに当てはまるのはどれか。
- a. 転 写
- b. 修 復
- c. 増 幅
- d. 複 製
- e. 変 異
- f. 翻 訳
1種類の生物がもつDNAの全体のなかから、特定の遺伝子を含むDNA断片を選び出してふやす方法を遺伝子のクローニングという。この方法により、遺伝子を物質として分析し、塩基配列の決定などが行える。さらに、クローニングした遺伝子を、培養細胞や大腸菌に導入し、有用なタンパク質を生産できる。大腸菌の遺伝子:ラクトースオペロンを用いた遺伝子クローニングの概略を記す(図8)。
図8に示したラクトースオペロンを構成するDNA、およびアンピシリンという抗生物質を分解できる酵素を生成できる遺伝子:AmprをベクターのDNAにつなぐ。次に、大腸菌にもともと存在しているラクトースオペロンを構成するDNAを除去した変異大腸菌を用意する。ラクトースオペロンとAmprを含むベクターDNAを変異大腸菌に導入し、ディッシュ(蓋付きの小皿)内の寒天培地で培養すると、培地上にはもともと1個の大腸菌がふえてできたコロニー(集落)が多数観察される。ベクターを導入された大腸菌では、β―ガラクトシダーゼはある条件下で生成され、アンピシリン分解酵素は常に生成されている。野生型の大腸菌はアンピシリン存在下で生存できないが.Ampr遺伝子をもつ大腸菌はアンピシリン存在下で生存する能力を獲得する。

このシステムを用いて以下の実験を行った。
実験:変異大腸菌、およびに変異大腸菌にラクトースオペロンとAmprを含むべクターDNAを導入した後、ディッシュ中の寒天培地で培養してコロニーを作らせた。培地には栄養源としてグルコースあるいはラクトースを加えた。さらに培地に物質Aと物質Bを加えた。物質Aはラクトースオペロンにおけるリプレッサーを阻害する物質である。物質Bは栄養源にはならないが、β―ガラクトシダーゼによって分解され、青色を呈する物質である。物質Bを分解できない大腸菌は自いコロニーを作り、物質Bを分解できる大腸菌は青いコロニーを作る。ディッシュごとに添加した物質の条件を表3に示す。各ディッシュで実験に用いた変異大腸菌の菌数は等しく、ベクターDNAの導入効率は0.1%(1000個の大陽菌のうち1個の大腸菌にぺクタ一が導入される)である。

- 問20 表3のディッシュa~iのうち、コロニーが出現しないのはどれか。2つ選べ。
- 問21 表3のディッシュa~iのうち、コロニーの出現数が多いのはどれか。3つ選べ。
- 問22 表3のディッシュa~iのうち、すべてのコロニーが青色を呈するのはどれか。2つ選べ。