東海大学生物2012年第3問

以下の事例は、色素細胞のがん(メラノーマ)が、遺伝的な原因で生じうることを示している。次の文章を読んで、以下の各問に答えなさい。
tokai-2012-biology-3-1

プラティとソードテール(図)はカダヤシ科に属する胎生メダカで、観賞用の熱帯魚として広く飼育されている。これらには3種類の性染色体X、W、Yがあり、それぞれ性を決定する因子であるf (雌)、F (雌)、M (雄)を含んでいる。(1)FはMに対し優性、fはMに対し劣性であるが、他の多くの魚類と同様に性転換が起こる場合のあることが知られている。プラティの体表には様々な形状の黒い模様があり、Sdと呼ばれる遺伝子を持つと背びれに黒い斑点が現れる。SdはXおよびY染色体上にあることがわかっている。背びれに現れるこれらの黒い斑点はマクロメラノフォアと呼ばれる黒色素細胞の一種が大量のメラニンを合成することによっている。ソードテールにはこのような黒い模様は現れないが、これはマクロメラノフォアを持たないためである。今、充分に兄妹交配を繰り返したプラティの雌とソードテールの雄(いずれも性染色体としてWを持たないものとする)を同じ水槽で飼育したところ、交配して雑種が生まれた。すべての雑種第1世代(F1)には背びれに黒い斑点が現れたが、これは次第に周囲に広がり、さらには離れた場所にも黒い斑点が現れて、体表の多くが黒く見えるようになった。

次にF1をプラティに交配したところ、半数の個体がプラティと同じ表現型、残る半数がF1と同じ表現型を示した。一方、F1をソードテールと交配して得られた子孫では、半数はマクロメラノフォアを持たず黒い斑点が現れなかった。ソードテールとの交配で斑点の現れた個体のうち、およそ半数はF1と同様の表現型であった。驚いたことに残りの半数では黒い斑点が内臓など全身に広がり、真っ黒になったひれは身体から脱落し、成熟する以前にすべての個体が死に絶えた。以上の結果は性別によらなかった。

そこで、F1型の表現型を示した個体、致死型の表現型を示した個体、および親世代のプラティから黒色素細胞を取り出し、(2)先天的にT細胞を持たないマウスに静脈を介して同じ細胞数を移植した。数週間後にマウスを解剖して調べたところ、F1型の表現型を示した個体の黒色素細胞を移植したマウスでは肺に少数の黒い斑点を認め、致死型の表現型を示した個体の黒色素細胞を移植したものでは肺、肝臓に黒い斑点が多数生じていたまた、親世代のプラティの黒色素細胞を移植したマウスではまったく斑点を認めなかった。この実験から、F1型、致死型いずれの黒色素細胞もがん化しており、特に致死型のものは悪性度が高いと認められた。

親世代プラティの黒色素細胞を詳しく調べたところ、メラニンを含む色素顆粒を多数持ちあまり増殖しないマクロメラノフォアの他に、色素顆粒の数が比較的少なく活発に増殖する細胞を含むことがわかった。いずれの細胞も樹枝状の突起を持っているが、(3)前者の細胞がアドレナリンに反応して突起の収縮を行うのに対し、後者の細胞はアドレナリンに反応しないという相違点が見つかった。また、マクロメラノフォアは後者の細胞から分化することがわかった。致死型、F1型を示した個体から採取した黒色素細胞の特徴を比較すると、以下の表に示すようであった。

致死型F1
メラニン含量多いやや少ない
アドレナリン反応性突起収縮する変化しない
増殖活性非常に強い強い
  • 問1 下線部(1)について、今、プラティの性決定が染色体だけによって決まり、性転換が起こらないものとすると、プラティの雄と雌においてそれぞれの性染色体の組み合わせはどのようになるか、すべての組み合わせを答えなさい。
  • 問2 下線部(2)について、なぜT細胞を持たないマウスを用いたのであろうか。通常のマウスに移植するとがんの悪性度を判定する上でどのような問題が生じると考えられるか。句読点を含め20字以内で説明しなさい。
  • 問3 下線部(3)に関連する以下の文章の空欄に当てはまる適切な語句を答えなさい。
    魚類は興奮すると( )神経が働き、その末端から分泌されるアドレナリンやノルアドレナリンに黒色素細胞が反応して色素顆粒が凝集し、体色が白っぽくなることがある。
  • 問4 Sd遺伝子の働きについて、以下の語群に示す三つの語句をすべて用いて、句読点を含め25字以内で説明しなさい。
    [語群]マクロメラノフォア、分化、増殖
  • 問5 F1とプラティの交配実験結果から、Sd遺伝子とは連鎖しない別の遺伝子が黒色素細胞の制御に重要な役割を担っていることが推測される。この遺伝子の働きについて推測できることを、句読点を含め30字以内で説明しなさい。