東海大学生物2012年第5問

次の文章を読んで、以下の各問に答えなさい。

動物の行動のなかには生まれつき備わっていて、経験や学習がなくても出現するものがある。そのような行動を特に( a )行動と呼ぶ。その反対に、生まれてからの経験や学習により出現するものを( b )行動と呼ぶ。昆虫のなかでもミツバチやアリなどは、同種の個体が密に集合したコロニーと呼ばれる集団を形成して生活していて、一般的に( c )といわれる。

ミツバチの集団では、ある1匹がえさ場を見つけると、しばらくすると同じ巣にいるたくさんの仲間がそのえさ場にやってくる。オーストリアの生理学者フォン・フリッシュはこれを詳細に研究し、見つけたえさ場の方向とえさ場までの距離を、独特のダンスによって仲間に伝えること(ダンス言語)を明らかにした。ミツバチのような( c )は、個体間の情報伝達のようなかなり複雑な行動でもその発現が( a )に決められている。

ミツバチのダンス言語には二種類の特徴的なものがある。えさ場がおよそ50メートル以内のときには、ダンスは右回りと左回りの円を描くことを交互に繰り返す「円形ダンス」をする(図1)。その情報は、「巣の周囲およそ50メートルの近辺を探せ」というものである。一方、えさ場がそれより遠い場合、ある程度直進してから、右回りと左回りに回転して8の字を描くもので、まっすぐ歩くときに腹部を左右に振る「尻振り」をする。これを「8の字ダンス」と呼ぶ(図2)。(1)この「8の字ダンス」により、えさ場がどこにあるかを仲間のミツバチに知らせることができる

近年、リレイらはダンス言語が実際どの程度有効なのかについて報告している(2005年、Nature 435;205-207)。この実験では、A地点にある巣において8の字ダンスを目撃した仲間のミツバチを捕まえて、極小の無線装置を取り付け、実際の飛翔(ひしょう)経路をレーダーで追跡した。また、この実験では、ダンス言語のみの有効性を正確に測定するため、えさ場のえさには芳香のないものを用い、また、えさ場は上空からは直接見えないようにした。すると、すべてのミツバチは正しい方向に飛び、えさ場の近くまで到達した。(2)しかし、えさ場の付近までは到達するが、正確にえさ場にたどり着けたのは19匹中2匹だけであった。一方、無線装置を取り付けたミツバチを実際の巣から離れたB地点に運び、そこから飛翔させた場合にも、そのミツバチは実際のえさ場ではなく、巣からえさ場に相当する方向と距離の近辺まで到達し、そこで方向を見失った。さらに、興味深いことにその方向を見失ったミツバチは、その後B地点まで戻ってきた。

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  • 問1 文中の空欄( a )~( c )に当てはまる適切な語句を答えなさい。
  • 問2 以下の文は、本文中の下線部(1)にあるように、ミツバチが「8の字ダンス」によりどのように仲間にえさ場の位置情報を伝達しているかを説明している。図1~図4を参考にしながら、空欄( 1 )~( 8 )に適切な語句を記入し、説明文を完成させなさい。
    〔説明文〕

    巣枠(巣基枠)を垂直に挿入した巣箱で、ミツバチが尻振りをしながら( 1 )する方向と( 2 )の反対方向とのなす角度が、巣から見た( 3 )の方向と( 4 )の方向となす角度に( 5 )。また、えさ場までの( 6 )の情報は、8の字ダンスの( 7 )により伝えている。実際、フォン・フリッシュは、ダンスの( 7 )が15秒に9~10回であると、えさ場までの距離はおよそ100メートルで、3回しか繰り返さない場合にはおよそ( 8 )離れていることを見いだした。

  • 問3 本文中の下線部(2)にあるように、この実験では多くのミツバチは目的とするえさ場に最終的に到達できなかった。その理由について、句読点を含めて25字以内で説明しなさい。
  • 問4 えさ場1(図3)の位置を確認して巣箱に戻ってきたミツバチが「8の字ダンス」を行っている時に、中にいるミツバチに気付かれないように静かに巣箱の向きを180°回転させた。その後に、8の字ダンスを目撃した仲間のミツバチを飛翔させた場合、そのミツバチはどのように行動すると予想されるか、下記の中から適切なものを一つ選び、番号で答えなさい。
    • (1) えさ場1に到達する。
    • (2) えさ場2に到達する。
    • (3) えさ場3に到達する。
    • (4) どのえさ場にも到達できない。
  • 問5 ある研究者は、系統Xと系統Yという2つの別々の系統のミツバチの「ダンス言語」について解析した。その結果、巣からえさ場までの距離が40メートル以下である場合には、系統Xと系統Yの両者のミツバチとも「円形ダンス」をし、60メートル以上の場合では両系統のミツバチとも「8の字ダンス」をした。しかし、えさ場が40メートルから60メートルの間にあった場合、系統Xのミツバチは「円形ダンス」をしたのに対し、系統Yのミツバチは「8の字ダンス」をした。これらの結果から、どのような仮説が立てられるか、句読点を含めて25字以内で説明しなさい。
  • 問6 問5の仮説が正しいとした場合、仮に系統Xに特有の「8の字ダンス」を系統Xおよび系統Yのミツバチが目撃したとすると、それぞれの系統のミツバチは巣から飛翔した後、どのように行動すると予想されるか、下記の中から適切なものを一つ選び、番号で答えなさい。なお、ここでは、えさ場のえさには芳香はなく、また、えさ場は上空からは直接見えないものとする。
    • (1) 両系統とも正しい方向に飛び、えさ場付近に到達する。
    • (2) 両系統とも正しい方向に飛ぶが、えさ場付近に到達するのは系統Xのみである。
    • (3) 両系統とも正しい方向に飛ぶが、えさ場付近に到達するのは系統Yのみである。
    • (4) 系統Xは正しい方向に飛び、えさ場付近に到達するが、系統Yは誤った方向に飛び、えさ場に到達できない。
    • (5) 系統Yは正しい方向に飛び、えさ場付近に到達するが、系統Xは誤った方向に飛び、えさ場に到達できない。
    • (6) 両系統とも誤った方向に飛び、えさ場に到達できない。