東京医科大学生物2013年第2問
<文Ⅰ>
血管が外傷をおっても、ほとんどのヒトは血液にA)漏出を塞ぐ不活性型の血しょうタンパク質がふくまれているので、死ぬような出血にはならない。このタンパク質は、血しょう中に常時存在し、血液凝固反応の最終段階でB)活性型の$\underline{\fbox{ア}}$に転換される。$\fbox{ア}$分子は集まって繊維をつくる。この繊維は血球を絡めて血べいをつくり、血液が凝固して傷口をふさぐ。この血液凝固反応は、血管の損傷部に凝集してきた血小板から凝固因子が放出されて始まる多数の凝固因子による連鎖反応である。
この連鎖反応に影響を及ぼす遺伝的変異は、わずかな切り傷や打撲傷でも過度の出血をもたらす血友病の原因となる。血友病には、血友病Aと血友病Bがあり、血友病AはC)凝固因子の第Ⅷ因子が、血友病Bは第Ⅸ因子が欠損している。それぞれの責任遺伝子はX染色体上に存在する。
- 問1 文中の$\fbox{ア}$に入る語は何か。最も適するものを、(1)~(5)のなかから1つ選べ。$\fbox{6}$
- (1) アルブミン
- (2) プロトロンビン
- (3) フィブリン
- (4) フィブリノーゲン
- (5) トロンビン
- 問2 文中の下線部A)の特徴として適する記述を、(1)~(5)のなかから2つ選び、解答番号7の解答欄にマークせよ。$\fbox{7}$
- (1) 水溶性の性質をもつ。
- (2) 肥満細胞(マスト細胞)から放出される。
- (3) Bリンパ球から放出される。
- (4) 肝細胞の粗面小胞体で合成される。
- (5) ヒトの全血しょうタンパク質の約50%に相当する。
- 問3 文中の下線部B)を生じさせる血しょうタンパク質の機能は何か。最も適するものを、(1)~(4)のなかから1つ選べ。$\fbox{8}$
- (1) 受容体
- (2) 輸送体
- (3) ホルモン
- (4) 酵素
- 問4 文中の下線部C)は2,332個のアミノ酸からなる。この遺伝子は、26個のエキソンをもち、9,036塩基のmRNAに転写される。この遺伝子には、イントロンは何個あるか。また、下線部C)に翻訳されなかったmRNAの塩基の数はいくつか。イントロンの個数は、【A群】の(1)~(10)のなかから、適するものを1つずつ選び、2桁で表せ。塩基の数は【B群】の(1)~(4)のなかから、最も適するものを1つ選べ。
- イントロンの個数:十の位$\fbox{9}$ 一の位$\fbox{10}$
- 塩基の数:$\fbox{11}$
- (1) 1
- (2) 2
- (3) 3
- (4) 4
- (5) 5
- (6) 6
- (7) 7
- (8) 8
- (9) 9
- (10) 0
- (1) 680
- (2) 2,040
- (3) 4,372
- (4) 6,704
- 問5 ある出生児集団の血友病Aの発生頻度は、出生男児のほぼ10,000人に1人である。この出生男児のデータから、この出生児集団における血友病Aの保因者の発生頻度は出生女児のほぼどのくらいと推定されるか。最も適するものを、(1)~(6)のなかから1つ選べ。$\fbox{12}$
- (1) 100人に1人
- (2) 500人に1人
- (3) 1,000人に1人
- (4) 5,000人に1人
- (5) 10,000人に1人
- (6) 50,000人に1人
哺乳類において肝臓は例外的に高い再生能力をもつ臓器で、マウスでは肝臓の70%を切除しても1週間程度で元の大きさと機能を回復する。この肝再生は、残った肝臓(残肝)での肝細胞の増殖と肥大によってなされる。
マウスにおいて、血小板の凝集を阻害したり血小板を減少させたりすると肝再生が抑制されることが知られている。血小板には、凝固因子のほかにセロトニン注)をはじめとして様々な生理活性物質が蓄えられている。血小板は、小腸に存在する内分泌細胞(EC細胞)が産生・分泌したセロトニンのほとんどを能動的に取り込んで、血液中の95%のセロトニンを蓄えている。
研究者は、「血小板が凝集したときに放出されるセロトニンを介して肝切除後の肝再生が進行する」という仮説をたてて、肝再生へのセロトニンの影響を肝臓の70%を切除したマウスで検討した(実験1~3)。
実験では、肝切除2日後の残肝を組織標本とし、光学顕微鏡の高倍率1視野のなかに観察できる全肝細胞数に対する増殖中の肝細胞数の割合で肝再生を評価した。増殖中と増殖中でない肝細胞の区別は、Ki67タンパクの発現の有無によって行った。Ki67タンパクは増殖中の細胞の核や染色体上に特異的に発現する。D)これを発現している細胞は、特殊な染色(免疫組織染色)を施すことにより光学顕微鏡で容易に見分けることができる。
注)EC細胞、血小板、視床下部のセロトニンニューロン、松果体などに高濃度に存在する物質で、ホルモンや神経伝達物質として機能している。
- 問6 下線部D)に該当しないものを、(1)~(5)のなかから1つ選べ。$\fbox{13}$
- (1) G1期の細胞
- (2) S期の細胞
- (3) G2期の細胞
- (4) M期の細胞
- (5) G0期の細胞
- 問7 次の(1)~(4)のなかで、血小板に存在しないものはどれか。最も適するものを1つ選べ。$\fbox{14}$
- (1) セロトニン
- (2) Ki67タンパク
- (3) 凝固因子
- (4) セロトニンを通過させる運搬体タンパク質
野生型マウスに血小板数が90%程度減少する処理を施して、血小板減少マウスをつくった。この血小板減少マウスにセロトニンと同様な働きをするセロトニン作動薬を投与して肝再生を検討した。
無処理の野生型マウス(コントロール)、血小板減少マウス、セロトニン作動薬投与血小板減少マウスのそれぞれについて、残肝の増殖中の肝細胞の割合を図1に示した。
-実験2-肝細胞には、複数のセロトニン受容体が存在する。その中で、5HT2Aと5HT2Bと呼ばれる2種類のセロトニン受容体は、肝切除後の残肝で発現量が増加することが観察されている。
これらの受容体に結合してセロトニンの作用を遮断する5HT2A拮抗薬や5HT2B拮抗薬を野生型マウスに投与して肝再生を検討した。拮抗薬非投与の野生型マウス(コントロール)、5HT2A拮抗薬投与マウス、5HT2B拮抗薬投与マウスのそれぞれについて、残肝の増殖中の肝細胞の割合を図2に示した。
-実験3-EC細胞のセロトニンの産生が阻害されているマウスを用いた。このマウスは、セロトニンの生成過程にかかわる酵素の1つであるトリプトファン水酸化酵素1(TPH1)を欠損している。図3-1に示すように、TPH1欠損マウス(遺伝子型:TPH-/-)の血小板では、セロトニン含有量が著しく低下している。しかし、セロトニンの一連の生成過程に出現するE)セロトニン前駆物質を投与すると血小板のセロトニン含有量がTPH1野生型マウス(遺伝子型:TPH+/+)のそれに近づく。
TPH1欠損マウスとセロトニン前駆物質を投与したTPH1欠損マウスにおける肝再生を検討した。TPH1野生型マウス、TPH1欠損マウス、セロトニン前駆物質投与TPH1欠損マウスのそれぞれについて、残肝の増殖中の肝細胞の割合を図3-2に示した。
- 問8 実験3で投与した文中の下線部E)は何と考えられるか。最も適するものを、(1)~(4)のなかから1つ選べ。$\fbox{15}$
- (1) TPH1の触媒反応の基質
- (2) TPH1の触媒反応の産物
- (3) TPH1の触媒反応の補酵素
- (4) TPH1の触媒反応の阻害剤
- 問9 実験1~3の結果の解釈として不適切なものはどれか。最も適するものを、(1)~(5)のなかから1つ選べ。$\fbox{16}$
- (1) 血小板減少マウスでは、残肝の肝細胞の増殖が抑制された。このことから、血小板が肝再生に重要な役割を果たしていると考えられる。
- (2) セロトニン受容体の5HT2Aや5HT2Bの拮抗薬により、残肝の肝細胞の増殖が抑制された。このことから、肝細胞のこれらの受容体とセロトニンとの結合が肝再生を進行させると考えられる。
- (3) TPH1欠損マウスでは、残肝の肝細胞の増殖が阻害された。このことから、TPH1欠損マウス肝細胞のセロトニン受容体の発現量が減少していると考えられる。
- (4) 血小板減少マウスでは、残肝の肝細胞の増殖が阻害されたが、セロトニン作動薬の投与により、残肝の肝細胞の増殖がほぼ回復した。このことから、肝再生にはセロトニンが関与すると考えられる。
- (5) TPH1欠損マウスでは、残肝の肝細胞の増殖が阻害されたが、セロトニン前駆物質の投与により、残肝の肝細胞の増殖がほぼ回復した。このことから、肝再生は血小板のセロトニンを介してなされると考えられる。
- 問10 肝移植を受ける人の多くに血小板減少の状態がみられる。この人たちに、ドナーから肝臓の一部を移植した後、F) を投与することは有効な手段と考えられる。実験1~3の結果から、下線部F)にはいるものとして最も適するものを、(1)~(4)のなかから1つ選べ。$\fbox{17}$
- (1) 5HT2A拮抗薬
- (2) 5HT2B拮抗薬
- (3) セロトニン作動薬
- (4) TPH1の触媒反応の阻害剤