東京慈恵会医科大学化学2013年第2問

次の文を読んで下記の問い(問1~問4)に答えよ。

高等動物は、酸素を取り入れて二酸化炭素を排出する呼吸を行っている。酸素は乾燥空気(101.3kPa)中に体積にして21.0%含まれる。ほ乳類では肺で酸素を取り込むが、肺の内部は水蒸気で飽和されているので、体温37℃の肺では水の飽和蒸気圧(6.26kPa)分だけ肺に入った空気の分圧は減少していて、肺に吸入された空気の酸素分圧$(P_{I_{\text{O}_2}})$も減少する。肺の奥にある肺胞では、酸素が血液に溶解する気液平衡状態にあり酸素が吸収されるので、(1)肺胞での酸素分圧$\underline{(P_{A_{\text{O}_2}})}$は$P_{I_{\text{O}_2}}$から吸収された酸素の量だけ減少する。肺胞では代わりに血液から排出される二酸化炭素が存在し、その分圧$(P_{A_{\text{CO}_2}})$は5.33kPaである。肺胞で吸収された酸素は体内で、ほとんど二酸化炭素と水に変換されるので、吸収された酸素がすべて肺胞内の二酸化炭素になるのではなく、排出される二酸化炭素物質量は取り入れた酸素物質量の80.0%程度である(ただし、肺胞においてもその全圧は、血液に吸収されない窒素分圧が高まるので101.3kPaである)。

酸素は、肺胞で血液に溶解するが、水1Lには37℃、酸素分圧101.3kPaのとき$1.1\times10^{-3}$molが溶解する。しかし、この量では、動物に必要な酸素量に到底足りない。血液中の赤血球にはヘモグロビン$(\text{Hb})$と呼ばれるたんぱく質が存在し、これが酸素と可逆的に結合するので必要とする酸素量を供給することができる。ヒトのような高等動物のヘモグロビンは1分子あたり4分子の酸素と結合できる。ヘモグロビンは酸素が結合することで分子の形が変化し、4分子の酸素が結合した構造が最も安定である。したがって、酸素分子の結合数によって平衡定数は変化し、4段階の平衡定数をそれぞれ、$K_1$、$K_2$、$K_3$、$K_4$(数字1~4は1分子のヘモグロビンに結合する酸素分子数を示す)とすると$K_4$が最も大きい。このため、1~3分子の酸素と結合したヘモグロビンはあまり存在せず、ヘモグロビンと酸素の平衡は、

\[\text{Hb}+4\text{O}_2\leftrightarrows\text{Hb}-(\text{O}_2)_4\] \[(平衡定数: _{(2)}\underline{K=K_1\cdot{K_2}\cdot{K_3}\cdot{K_4}})\]

とみなすことができる。ヘモグロビンは、分圧が4.0kPaの酸素気体と血液が接しているときに全体の50%が酸素と結合した$\text{Hb}-(\text{O}_2)_4$であり、酸素濃度の低い組織に移動すると効率的に酸素分子を放出する。日本人男性の血液に含まれる平均的なヘモグロビン量は0.13~0.18g/mLである。また、ヘモグロビンの分子量は$6.5\times10^4$である。

  • 問1 下線部(1)、肺胞での酸素分圧$(P_{A_{\text{O}_2}})$(kPa)を求めよ。
  • 問2 肺胞で酸素が吸収されるとき、酸素分圧が101.3kPaでは実質的に血液中のすべてのヘモグロビン分子に酸素が結合しているとみなすことができる。この酸素分圧のとき、37℃でヘモグロビン量が0.13g/mLの血液1.0Lは、何molの酸素を吸収することができるか。血液を比重1.06のヘモグロビン水溶液として考えよ。水の比重は37℃で1.00とする。
  • 問3
    • (1)下線部(2)の平衡定数$K$を、血液に溶解している酸素濃度$[\text{O}_2]$、ヘモグロビン濃度$[\text{Hb}]$、へモグロビン-酸素(4分子)複合体濃度$[\text{Hb}-(\text{O}_2)_4]$を使った式で表せ。
    • (2)平衡定数$K$は約$5\times10^n$[L4・mol-4]である。指数$n$を求めよ。
  • 問4 水中の溶存酸素の定量は、原理的には、試料水に硫酸マンガン(Ⅱ)を加えて酸素による酸化反応を経て、水酸化マンガン(Ⅲ)を沈殿として生成させたのち、沈殿をヨウ化カリウム水溶液で再び還元し、(3)この反応の生成物をチオ硫酸ナトリウム$(\text{Na}_2\text{S}_2\text{O}_3)$水溶液で還元滴定する方法で行われる。以下の問い(1)(2)に答えよ。
    • (1)このマンガン(Ⅱ)からマンガン(Ⅲ)を経て、再びマンガン(Ⅱ)に戻る2段階のイオン反応式は式$\eqref{aa}$$\eqref{ab}$のように書ける。式$\eqref{aa}$$\eqref{ab}$のイオン反応の際に、それぞれ同時に起こる還元反応、酸化反応のイオン反応式を書け。
    • \[4\text{Mn}^{2+}\rightarrow4\text{Mn}^{3+}+4\text{e}^-\tag{I}\label{aa}\] \[2\text{Mn}^{3+}+2\text{e}^-\rightarrow2\text{Mn}^{2+}\tag{II}\label{ab}\]
    • (2)下線部(3)の生成物の定量分析に、$2.50\times10^{-1}$mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液を用いた。以下の実験操作の空欄アイウエに入る適切な数値あるいは語句を記せ。
      固体のチオ硫酸ナトリウム5水和物$(\text{Na}_2\text{S}_2\text{O}_3・5\text{H}_2\text{O})$$\fbox{ア}$gを正確に秤量し、100mLのビーカーに入れる。蒸留水を加え、完全に溶かしてから、この溶液を残さず200mLの$\fbox{イ}$に入れる。蒸留水を標線まで加えてチオ硫酸ナトリウム標準水溶液を作製する。このチオ硫酸ナトリウム標準溶液を$\fbox{ウ}$に入れる。試料水溶液にデンプン水溶液を加えて$\fbox{エ}$色にした試料水溶液の色が消えるまで、チオ硫酸ナトリウム標準溶液を滴下し滴定する。