東京女子医科大学生物2013年第1問
[文A]
(a)空気を伝わった音波(振動)が聴覚を生じるまでの経路や(b)聴覚中枢に障害があると難聴をきたす。自動車やケーブルカーなどに乗って山を登ると音が聞こえにくくなることがある。外耳道の気圧が外気圧とともに変化するのに対して、通常は閉鎖空間になっている中耳の気圧は変化しないため、外気圧が低下すると鼓膜の内外で気圧差が生じて鼓膜が外側へ押されて自由に振動できなくなるためである。中耳は耳管(耳小管、エウスタキオ管、ユースタキー管)によって鼻の奥につながっているが、ふだんは耳管は周囲の組織により押しつぶされて閉じていることが多い。唾液を飲み込んだりする動作で一時的に耳管が開通すると、これを通じて高圧側から低圧側へ空気が流れて中耳と外気圧が等しくなり、また、ふつうに聞こえるようになる。潜水中は外部の圧力が急激に大きく変化する。顎を動かしたり、指で鼻をつまんだまま鼻をかむような動作をすると耳管が開いて空気が高圧側から低圧側に流れ込む。これを「耳抜き」という。なんらかの理由で「耳抜き」ができないまま強引に潜水もしくは浮上すると、鼓膜内外の圧力差が大きくなりすぎて鼓膜が破れることがある。すると、(c)鼓膜の破れた箇所から水が流入して内耳を冷やし、内耳の機能が障害されて「めまい」を覚える。
ヒトは直立の姿勢で左右どちらか一方へ等速で回転しているとき、多くの場合、周囲の風景の一点を見つめたのち、回転先にある別の一点へ瞬間的に視線を移す。視線は体の回転につれて回転と逆向きに動いた後、回転と同じ向きに急速に動くことをくりかえし、眼球は左右に振動するように動いているのである。回転を急に止めた直後はこの眼球運動が継続し、このときに「めまい」を感じる。回転をやめた直後の眼球運動は回転中に目を開けていた場合でも目を閉じていた場合でも同じように起きることから、これには視覚以外のメカニズムが働いていることがわかる。潜水中に「耳抜き」がうまくできずに鼓膜が破れて水が流入したとき、同じように眼球が左右に動く。鼓膜が破れた耳の側へ眼球がゆっくり動き、急速にもとに戻ることを繰り返す。
- 問1.文Aの下線部(a)について、音波の伝わる主要な順序として適切なものを1つ選べ。ただし、いずれの選択肢にも経路のすべてが記されているとは限らない。(解答番号$\fbox{1}$)
- ア.外耳道 → 中耳 → 内耳 → 鼓膜
- イ.外耳道 → 中耳 → 鼓膜 → 内耳
- ウ.外耳道 → 中耳 → 鼓膜 → 脳
- エ.外耳道 → 鼓膜 → 中耳 → 内耳
- オ.外耳道 → 鼓膜 → 内耳 → 脳
- 問2.耳小骨の存在する部位はどこか。 (解答番号$\fbox{2}$)
- ア.外耳道
- イ.中耳
- ウ.うずまき管
- エ.前庭
- オ.半規管(三半規管)
- 問3.耳小骨の機能として適切なものを1つ選べ。(解答番号$\fbox{3}$)
- ア.鼓膜の振動を内耳へ中継する。
- イ.頭部の傾きを受容する受容器の部分としてはたらく。
- ウ.頭部の回転運動を受容する受容器の部分としてはたらく。
- 問4.耳石 (聴砂、平衡砂)の存在する部位はどこか。(解答番号$\fbox{4}$)
- ア.外耳道
- イ.中耳
- ウ.うずまき管
- エ.前庭
- オ.半規管(三半規管)
- 問5.耳石(聴砂、平衡砂)の機能として適切なものを1つ選べ。(解答番号$\fbox{5}$)
- ア.鼓膜の振動を内耳へ中継する。
- イ.頭部の傾きを受容する受容器の部分としてはたらく。
- ウ.頭部の回転運動を受容する受容器の部分としてはたらく。
- 問6.音波を受容して興奮する細胞はどの部位にあるか。(解答番号$\fbox{6}$)
- ア.鼓膜
- イ.うずまき管
- ウ.前庭
- エ.半規管(三半規管)
- 問7.次の図は耳の内部構造の一部の断面模式図である。次の(あ)、(い)はどこか。図中のア~キの記号で答えよ。
- (あ)鼓室階(解答番号$\fbox{7}$)
- (い)コルチ器(解答番号$\fbox{8}$)
- 問8.文Aの下線部(b)について、ヒトの聴覚中枢が存在するのはどこか。(解答番号$\fbox{9}$)
- ア.大脳
- イ.中脳
- ウ.小脳
- エ.延髓
- オ.脊髓
- 問9.文Aの下線部(c)について、「めまい」の原因になっている障害は、下のア~オのどの部分に生じたと考えられるか、1つ選べ。(解答番号$\fbox{10}$)
- ア.うずまき管
- イ.三半規管(半規管)
- ウ.耳小骨
- エ.中枢神経系の聴覚中枢
- オ.間脳の視床下部
ヒトの中枢神経系は脳と脊髄からなる。脊髄の同じ高さの左右からそれぞれ2本の神経が出る。$\fbox{11}$は途中が膨らんでおり、その内部には$\fbox{12}$の神経細胞の細胞体がある。一方、脊髄内部には$\fbox{13}$の神経細胞の細胞体があり、そこからのびる軸索は$\fbox{14}$を通る。$\fbox{11}$と$\fbox{14}$は合流したのち、分枝しながら体の各部分へのびる。高い椅子に腰掛けて膝から下をだらりと下げた状態で、膝のすぐ下を前側から叩くと、蹴り上げるように足が無意識に動く。このように大脳による高次の調節を受けない反応を$\fbox{15}$といい、膝下を叩いたときの$\fbox{15}$の中枢は脊髓である。神経繊維には、髄鞘をもつ$\fbox{16}$と髄鞘をもたない$\fbox{17}$があり、興奮を伝導する速さは$\fbox{16}$の方が速い。
- 問10.文Bの空所11~17を補うのに適切な語句を下のア~コから選べ。(解答番号$\fbox{11}$~$\fbox{17}$)
- ア.散在神経系
- イ.集中神経系
- ウ.有髄神経繊維
- エ.無髄神経繊維
- オ.感覚神経
- カ.運動神経
- キ.腹根(前根)
- ク.背根(後根)
- ケ.反射
- コ.刷り込み