東京女子医科大学生物2013年第4問

以下の文章を読んで次の各問に答えよ。

カビの仲間のある菌は、生活環のほとんどを単相で過ごす。体を構成する菌糸は細長い細胞が多数連なってできており、1つの細胞には数個の核(通常は単相)が含まれる(実際には隣接した細胞間の隔壁には小穴が開いて細胞質は連続しているが、便宜的には隔壁で区切られた小区画を細胞とみなすことができる)。この菌は、菌糸の一部から形成された胞子柄の先に核を1個持つ分生胞子(他と細胞質が連続することのない1個の細胞である)が多数つくられる無性生殖で主に増える。胞子柄から飛び散った分生胞子は発芽して菌糸を形成して成長していくが、伸長する2本の菌糸の先端がぶつかると細胞同士が融合し両方の細胞に由来する核が混在する細胞となることがある。ぶつかった細胞同士が遺伝的に異なる核を持っていた場合、融合した細胞には遺伝的に異なる2種類の核が含まれ、これをヘテロカリオンと呼ぶ。ヘテロカリオンでは、しばしば2種類の核が融合して1つになり複相の核を含む細胞となって成長していくことがあり、この場合複相の核を持つ分生胞子も形成される。

  • 問1.野生型のこの菌の分生胞子は緑色をしており、この緑色色素は無色の前駆物質から中間物質である黄色色素を経て合成される。前駆物質から黄色色素への反応を触媒する酵素の遺伝子をy、黄色色素から緑色色素への反応を角独媒する酵素の遺伝子をgとし、これらが突然変異により機能を失った遺伝子をそれぞれy-、g-と表す。機能を持つそれぞれの酵素がつくられれば、ほぼ全の前駆物質が黄色色素に、あるいは、ほば全ての黄色色素が緑色色素に合成される。また、黄色色素も緑色色素もつくられない場合、分生胞子は白色となる。次の遺伝子型を持つ分生胞子は白色、黄色、緑色のどれか。
    • 1) yg(単相の分生胞子)
    • 2) yg-(単相の分生胞子)
    • 3) yg-/y-g-(複相の分生胞子)
    • 4) y-g(単相の分生胞子)
    • 5) y-g/y-g(複相の分生胞子)
    • 6) y-g/yg-(複相の分生胞子)
  • 問2.この菌には、緑色色素合成には全く無関係だが生存には必須な物質A、B、Cを細胞内でつくれない突然変異体がある。A、B、Cの合成酵素の遺伝子はそれぞれa、b、cである。a、b、cのどれかが機能を失った突然変異体では、その遺伝子が正常であればつくられるはずだった酵素により合成される物質のみがつくられなくなる。この突然変異体は、野生型が生育できる最小限の栄養素を含む基本培養液に突然変異体がつくれない物質が加わった培養液でつくった寒天培地上では生育することができるが、その物質を含まない培地では死滅する。
    問1の遺伝子y、g、および、遺伝子a、b、cの5つの遺伝子のうちいくつかが機能を失った2種類の異なる突然変異体(単相)がある。それぞれの突然変異体から得られた分生胞子を等量とり、基本培養液に混ぜた。分生胞子を含む基本培養液を少量とって、基本培養液に物質A、B、Cを加えた培養液あるいは基本培養液のみでつくった次の表に示すような寒天培地上に薄く広げて育てた。すると、いくつかの種類の培地上では菌が増殖して、次の表に示すような色の分生胞子が形成された。この結果から、2種類の突然変異体のそれぞれについて機能を失っている遺伝子を推定せよ。なお、死滅した菌のDNAが他の細胞に取り込まれること、および、実験中に突然変異が起こる可能性は考えなくてよい。また、緑色色素合成の前駆物質と中間物質(黄色色素)、物質A、B、Cは細胞外に出ることはない。
    培地の
    種類
    培地をつくった培養液中の物質A、B、C
    の有無
    白色の分生胞子
    形成
    黄色の分生胞子
    形成
    緑色の分生胞子
    形成
    A
    B
    C
    1
    ×
    ×
    ×
    ×
    ×
    ×
    2
    ×
    ×
    ×
    3
    ×
    ×
    ×
    4
    ×
    ×
    ×
    5
    ◯:あり  ×:なし
  • 問3.問2の実験の5の培地ではなぜ緑色の分生胞子が形成されたのだろうか。簡潔に説明せよ。
  • 問4.問2の実験において用いた、突然変異体から得られた分生胞子を含む基本培養液を、基本培養液で50倍に希釈した。これを問2の実験と同じ量とり、問2の実験と同じようにして5の培地に薄く広げて育て、問2の実験と同じ時間たった後観察した。すると、量は少ないが白色や黄色の分生胞子の形成は見られたものの、緑色の分生胞子の形成は見られなかった。なぜだろうか。簡潔に説明せよ。