東京女子医科大学生物2012年第2問

下の文章を読み、以下の問に答えよ。

水中にすむ多くの無脊つい動物や魚類・両生類などでは、卵や精子を水中に放出する$\fbox{a}$を行なう。受精の研究は、観察が容易なこうした動物について行なわれたものが多い。

無脊つい動物のうち、ウニやヒトデなどの$\fbox{b}$では、最初の精子の前端が卵の細胞膜の外側に貼りついている卵膜を通過して細胞膜に達すると、やがてその位置から卵膜が細胞膜から離れて盛り上がり始め、それが卵全体に広がる。細胞膜から離れた卵膜を受精膜といい、受精膜は卵膜とは性質が変わり、精子を通過させない。ヒトデでは、受精膜の形成は最初の精子が卵膜に到着してから約40秒後に始まり、それから約1分後には受精膜が卵の細胞膜の表面全体を包むようになる。そうなると他の精子はもう卵の細胞膜に達することができない。複数の精子が卵内に進入することを多精というが、多精が起こると発生が正常に進まない。受精膜は多精を防ぐ働きをしている。

実際には、受精膜が卵の細胞膜の表面全体を包む以前に2番目以降の精子が卵の細胞膜に達することがあるが、ほとんどの場合卵内に進入する精子は最初の1個だけであり(これを単精という)、多精は滅多に起こらない。最初の精子が卵膜に到着してから受精膜が卵の細胞膜の表面全体を包むまでの間は、卵は受精膜とは(A) 別のしくみにより多精を防いでいると考えられる。

[実験1]

放卵されてすぐのヒトデの卵を少量の海水とともにペトリ皿に入れ、顕微鏡で観察しながら卵にごく細い電極を剌して細胞膜内外の電位差 (膜電位) を測定した。この方法で多数の卵について膜電位を測定したところ、細胞膜の内側が外側の海水より低い値を示し、約-30 mVであった。これは、動物細胞一般に見られる$\fbox{c}$電位に相当すると考えられる。

ペトリ皿の端から精子を含む液を与えて、卵を顕微鏡で観察するとともに、精子が卵膜に到着する前後の卵の膜電位を測定した。精子の濃度は、最初の精子が卵膜に到着した後、精子が約5秒間隔で次々に到着するように調整してある。

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膜電位の変化は図1のようになった。受精膜が卵の細胞膜の表面全体を包むまでに2番目以降の精子が何個か卵膜に到着していたが、卵内に進入することのできた精子は最初の精子だけ、すなわち受精卵は単精で、その後正常な卵割を行なった。

[実験2]

放卵されてすぐの卵をペトリ皿に入れ、卵に電極を刺し、これを通してごく弱い電流を流すと、卵の膜電位をいろいろな高さに変えることができる。この膜電位の変更が細胞膜の他の性質や受精膜の形成などの卵の性質には何ら影響を及ぼさないことが確かめられている。卵の膜電位をいろいろな高さにして、精子の卵内への進入の有無を多数の卵について調べ、下の表の結果を得た。精子が進入した卵では、受精膜が正常に形成された。

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[実験3]

放卵されてすぐの卵を少量の海水とともにペトリ皿に入れ、顕微鏡で観察しながら卵に電極を剌して膜電位を測定したら-30 mVであった。実験1と同じ条件に調整した精子を含む液を加えたら、図2アの時点で最初の精子が卵膜に到着し、膜電位の上昇が始まった。ただちに電極を通してごく弱い電流を流し、膜電位の上昇を妨げて膜電位を-20 mVに下げ(図2イ)、それを維持した。図2アの時点から20秒後(図2ウ)に電流を切ると膜電位はただちに+15 mVに上昇し、その後高い膜電位が維持された。図2アの時点から約40秒後(図2工)にこの卵に受精膜ができ始め、図2オの時点で卵の細胞膜の表面全体を包んだ。

この卵には複数の精子が進入していて、卵は異常な卵割を示した。
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  • 問1. 文中の空欄a~cに入る適切な語を書け。ただし、bは系統樹における分類群の名称である。
  • 問2. 動物の精子がもつ下のイ~ニの特徴あるいは働きをもつ構造の名称を答えよ。
    • イ:ゴルジ体から形成される
    • ロ:遺伝情報を含む
    • ハ:高エネルギー物質を産生する
    • ニ:水中を泳ぐための連動器官である
  • 問3. 実験3に関連して、下のイ~ホの可能性を考えた。この中からもっとも可能性が低いと考えられるものを1つ選び、記号で答えよ。ただし、実験1、2の結果を踏まえた上で考えよ。なお、選択肢ハ、ニ、ホは、実験3の条件や操作を一部変更して、あらたな実験を行なった場合に得られる結果についての可能性を記している(記載されている変更以外の条件や操作は実験3と同じである)。
    • イ. 実験3の卵が多精となったのは、膜電位の変化を測定するために卵に電極を刺したことによる
    • ロ. 実験3の卵における受精膜の形成は、最初の精子の到着が引き金となって起こった
    • ハ. 精子が約25秒間隔で卵膜に到着するように条件を変えると単精となる
    • ニ. 図2イからウの間の膜電位を-7 mVに維持するように条件を変えると単精となる
    • ホ. 図2イで膜電位をいったん-20 mVに下げた時にただちに電流を切るように条件を変えると、単精となる
  • 問4. 卵巣から放出されてから時間が経ったヒトデの卵は、多精となることが多い。下のa~fはそうした卵を含むいろいろな卵における、最初の精子が卵膜に到着した時から後の卵の膜電位の変化を示している。それぞれの場合について、イ:単精、ロ:多精のうち、どちらの可能性が高いか。適切な方を選び記号で答えよ。図中の矢印は最初の精子が卵膜に到着した時を表す。膜電位の測定法、精子の濃度や与え方などの条件は実験1と同じである。精子が卵に進入できる卵の膜電位は実験2の結果と同じとする。また、受精膜の性質および受精膜形成の時間経過は正常であるとする。
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  • 問5. 文中の下線部(A)にあるように. ヒトデの卵で多精が滅多に起きないのは、受精膜が卵の細胞膜の表面全体を包む以前に、どのようなことが起こるからであると考えられるか、述べよ。