東京女子医科大学生物2012年第3問

次の文を読み、下の各問に答えよ。
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恒温動物であるヒトには、体温を一定に保つしくみが備わっている。体は、つねに熱を産生しているが、産生したのと同じだけの熱を体外へ排出しているのである。熱は、体表や呼吸器から水分が蒸発するときの気化熱のほか、体表からの放射 (輻射) や外気などへの伝導や、尿や便に含まれる熱として体外へ排出される。これらのうち、平常の生活を営んでいるときにもっとも割合が大きいのは気化熱である。外気温がとくに高くなければ、分泌された汗はすみやかに蒸発するので体表が汗で濡(ぬ)れることはなく、こういう発汗を不感蒸泄(じょうせつ)という。

外気温が暑くも寒くもない範囲内であって運動を行つていないときであれば、産熱は大きく変動することはなく、産熱につりあうようにおもに排熱が調節される。外気温が高めのときは体表近くの血管を流れる血流量が増加し、逆に外気温が低めのときは体表近くの血流量が減少する。

外気温が低めのときは、外気に冷やされて体表温は下がり、放射(幅射)が減少するとともに外気との温度差が小さくなって伝導による排熱も減少する。四肢や首では冷えた血液が流れる静脈を、これと隣接して対向して流れる動脈が温めるため、脳や心臓など生命維持に重要な臓器がある体の深部の温度はあまり下がることはない。このように、実際にほぼ一定に保たれているのは体の深部の温度であり(これを核心温という)、体表や四肢など、末梢の温度は条件によってさまざまに変化する(図1を参照)。

さらに外気温が下がると、排熱の調節に加えて体内で積極的な熱産生が行われる。たとえば、筋肉による産熱はふるえや意図的な運動によって行われる。外気温が0°Cを下回るときは体表の組織が凍って凍傷になることがある。また、産熱の増大によっても核心温の低下を防げない場合は、意識を失い、死に至ることになる。

一方、外気温が高いと、体表近くの血管を流れる血流量が増加するとともに、発汗が増加して汗が体表を濡らすようになる。こういうときは、体表からの排熱を妨げる着衣を減らしたり、水分の気化を促すように風にあたるなどの排熱を促す行動をとる。冷やした飲み物を飲むことで直接体を冷やそうと試みたりもする。同様のことは、外気温はそれほど高くなくても運動を行っているときにも起きる。外気温が限界を超えて高いときや、激しい運動を続けたときは排熱が間に合わなくなる。運動中であればその運動を緩和もしくは中止することで産熱を減らすことができるが、運動中ではなくただ外気温が限界を超えて高いときには、もはや体の調節機能では体温を保つことができなくなり、核心温が上昇し、ひどい場合は死に至る。

汗腺で汗がつくられるとき、汗腺中に濾(こ)しだされた液体から塩分が再吸収されることから、汗に含まれる塩分濃度は体液の塩分濃度よりも極めて低いのが普通である。しかし、激しく発汗すると、汗腺における(A) ナトリウムの再吸収が間に合わなくなって、汗の塩分濃度が高くなる。激しい運動の後、汗に含まれていた塩分が結晶して体表が粉をふいたように白くなることがあるのはこのためである。

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  • 問1. 図2の中の(ア)~(オ)を補うのに適切な用語を答えよ。
  • 問2. 文中の下線部(A)について、腎臓に作用して腎臓における下線部(A)と同じ働きを促進するホルモンの名称と、そのホルモンを分泌する内分泌器官の名称を答えよ。
  • tokyojoshiika-2012-biology-3-3
  • 問3. 次の(ア)~(ウ)のそれぞれは、図3の中に示した範囲Aと範囲Bのどちらでおもに起きるか。AまたはBの記号で答えよ。AとBのいずれでも同様に起きる場合はABと答えよ。いずれでも起きない場合は「なし」と答えよ。
    • (ア) 図中の熱中立帯よりもアドレナリンの血中濃度が高い。
    • (イ) 図中の熱中立帯よりもATPの消費量が多い。
    • (ウ) 図中の熱中立帯よりも尿の生成量が多い。
  • 問4. 図3内の上の図は、核心温の変化を相対値で表した未完成のグラフである。すでに描かれている線Cは核心温の変化を熱中立帯についてのみ示している。これに線を描き足してグラフを完成させよ。
  • 問5. 風邪をひいて熱があるとき、布団にくるまって体表からの排熱を妨げる一方で、氷のうや水枕で頭部を冷やす。それによって冷やされた血液はそのまま脳内を流れることはなく、首の静脈を通って心臓へ戻る。しかし、この処置は、脳へ向かう血液の温度を下げる効果があるとされる。どのようにして脳へ向かう血液の温度が下がるか述べよ。
  • 問6. 次の文中の空欄$\fbox{ア}$と$\fbox{イ}$を補うのに適切なものを、下から選べ。

    ヒトの体温調節の目標値(セットポイント)は約37°Cであり、核心温がここから外れていればこれに近づけるようなさまざまな反応が起きる。この目標値は変化することがあり、たとえば、風邪を発症して体温調節の目標値が37°Cから38°Cへ変わったとする。その時点での核心温が37°C だとすると、これは目標値38°Cよりも低く、$\fbox{ア}$と同様の反応が起きるため、外気温が$\fbox{イ}$。

    • アの選択肢
      • a. 運動時で産熱が増大しているとき
      • b. 寒冷下で体が冷やされているとき
      • c. 高温下で体が温められているとき
    • イの選択肢
      • a. 低くなくても寒いと感じ、ふるえが起きる
      • b. 高くなくても・暑いと感じ、汗をかく
      • c. 低いにもかかわらず、汗をかく